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特集タイトル


総務省より『新地方公会計制度実務研究会報告書』が公表され、今後、市町村の行財政改革が急ピッチで進められていくことになる。しかし実務面ではまだまだ情報が不足しているのが実情だ。そこで本号では、監査委員監査に携わる税理士と自治体の財政担当者という2人の実務家にご登場いただき、それぞれの立場から「公会計改革」への取り組みのポイントをうかがった。


◆加瀬先生は地方公共団体の職員を経て税理士となり、現在、監査委員として行政監査に携る一方、千葉県税理士会の副会長として多くの職員や監査委員と接し、後進の指導・育成にあたっておられます。昨今の公会計制度改革の動きをどうご覧になっているのでしょうか。
加瀬 
公会計制度改革の重要性は誰もが認めるところですが、監査委員を含めて多くの職員は未だに実感が伴っていないのが現状だと感じています。その大きな要因は、制度と実態との乖離です。新たな制度では、地方公共団体に対して「バランスシート(B/S)」と「行政コスト計算書」に加えて、「資金収支計算書」「純資産変動計算書」の作成を求めています。しかし、『地方公共団体の平成17年度版バランスシート等の作成状況』を見ると、普通会計でも市町村の六割しかB/Sを作成していません。この団体でも公有資産の評価まで実施しているところがどれだけあるか…。さらに、特別会計を含む全体B/Sを作成しているのは191団体(10.5%)で、連結ベースでは117団体(6.4%)です。新制度開始にあたって正確なB/Sの作成は、いわば“スタート地点”ですが、未だ多くの自治体がそこにも辿り着いていないのが現状といえますね。

なぜ、公会計制度改革が必要なのか

加瀬 また、「行政経営の質的転換」に、意識が追いついていないことも挙げられます。戦後、日本経済はその発展過程においてさまざまな変遷を重ねて現代に至っており、企業会計もこれに合わせて進化してきました。しかし、公会計だけは何者にも影響されず、これまで明治時代の姿を保ってきました。そこへ、いきなり「発生主義・複式簿記」「連結会計」といっても、世界観が違い過ぎます(笑)。ましてや、組織や人は変わることに非常に強い抵抗感を覚えます。これを変えるとなると、非常に大きなエネルギーと強固な動機付けが必要でしょうね。
◆確かに、制度対応は法律で定められたものではありません。
加瀬 
そもそも何のために公会計制度改革を行うのか。それは「住民自治」の原則の下、財政状況を主権者たる住民に知らせ、その監視機能により財政規律の強化を図っていくためです。そのため、開示される情報は市町村の財政状況を評価する上で十分なものであり、しかも分かりやすいものでなければなりません。例えば、資産と負債がいくらあって、債務や公債費比率はどうなのか、将来的な負担はどうなるのか。そうしたことを住民に開示することは、制度改革以前に、行政としての責務です。ご承知の通り、夕張市の財政破綻は全国に大きな衝撃をもたらしました。自分たちの住んでいる町が、ある日突然、倒産するという事態が杞憂でないことを目の前に突きつけられ、多くの人が「わがまちは大丈夫なのか」と不安になり、決して他人事ではないと感じたことでしょう。自治体倒産のツケは住民に回ります。厳しい財政状況ならば、それをきちんと住民に説明し理解してもらった上で、財政を再建しなければならない。だからこそ、まずはスタート地点にしっかり立つことが大切です。
◆おっしゃる通りですね。そのスタート地点に立つためには、乗り越えるべきいくかのハードルがあります。
加瀬 
国は平成20年秋をめどに、平成19年度決算の連結財務書類4表(あるいは連結B/Sのみでも)を開示するなど、地方公共団体へ早期の対応を求めています。そのためには、まず公有資産の評価を行い、その結果を踏まえた「開始貸借対照表」作成に取りかからなければなりません。これが最初の目標ですね。その上で、リース契約などB/Sに計上されない取引の実態、例えば現在残高や今後の支払い計画などが把握できるようにして情報を開示する必要があります。ちなみに、その前提としてリース契約期間のルール化が欠かせません。内規で契約期間を定めていても実際の運用は曖昧な部分もあり、これはきちんと明文化すべきでしょう。そして、次が地方公社や第三セクターなども含めた連結B/Sの作成です。連結対象となるのは一部事務組合・広域連合、地方三公社、地方独立行政法人および第三セクター等です。個々に決算書が存在することから、まとめるのは大変ですが、 地方自治体の全体的なリスクも含めた中長期的な財政運営の健全化を図るという点からも、しっかり腰を据えて取り組まなければなりません。実際のところ、市町村単体では財政状況に問題がなくても、連結ベースで厳しい現状が明らかになるケースは多いでしょうね。

まずは、スタート地点に立つ

◆公有資産の評価については、「基準モデル」では公正価格による評価を原則とし、「総務省方式改訂モデル」では取得原価等に基づく評価を代替的・簡便的に認めることとした上で、段階的に基準モデルの考え方に移行することを求めています。そこで生じた誤差については、資本の部に調整勘定を設けて処理する考えのようですね。
加瀬 
2つのモデルが示されたのは、従来、総務省方式でやってきた団体への配慮でしょうが、逆に選択肢が多いと混乱も生じやすくなります。やはり「会計基準」は一つであるべきで、個人的には法律で決めて一気に基準モデルでやった方が混乱も少ないだろうと感じています。恐らく、多くの市町村では総務省方式改訂モデルを導入することになると思いますが、資産の評価方法が複数あると混乱するため、いずれか統一的な基準を決めてやるしかありません。絶対値ではないかもしれませんが、相対的な資産価値は示すことができます。ただ、段階的に移行するにしても調整勘定についてはあまり長い猶予期間とせず、3年ぐらいで区切ることが肝要でしょう。そうしないと行政の評価点を上げるために、“粉飾決算”に悪用されるリスクが生じます。
◆連結決算については、いかがでしょうか。
加瀬 
最初は戸惑いもあるでしょう。例えば、企業会計は発生主義のため「売掛金」という勘定科目がありますが、一般会計にはありません。一方で企業会計に慣れている人にとっては一般会計の仕組みは分かりづらい。ただ、そうした部分は職員研修等で補うことは十分可能で、連結B/Sも一緒にやれば対応はできると思います。その点、運用面の心配はしていません。自治体職員は優秀ですし、スタート地点に至るまでの“基盤”がしっかりと固まれば、後は一気に動き出すと考えています。複式簿記の専門知識がなくても、科目の仕訳はコンピュータが自動的にやってくれるでしょうしね。
◆確かに、それはコンピュータが得意とする分野です(笑)。ただ、これからの方向性を考えると、新たな公会計の仕組みへ対応するだけでは不十分で、地方自治制度の再設計に合わせて財務会計システムも質的転換が必要でしょうね。
加瀬 
財政運営の「経済性・効率性・有効性」の向上を図るためにも、政策決定・判断、業績管理を強力に支援する財務会計システムの登場が待たれますね。
◆ぜひ、ご指導ください。さて、監査委員として公会計制度改革へ期待することは何でしょうか。
加瀬 
監査委員は独立した立場で、地方公共団体の行財政が法令に準拠して適正に行われているか、また、効果的、合理的、能率的に行われているかを監査するものです。平成3年の地方自治法改正で財務監査のほか業務監査もできるようになり、また昨年末の地方分権改革推進法においては監査機能が一段と強化されました。今後は財務諸表の客観性・正確性を担保するため、監査委員による精査がますます重要になりますね。その点、今後は前年対比や年度比較、あるいは連結ベースでの債務状況や予算・資金源泉の動きといった財政力の把握も容易になり、その分、より広く深い監査ができるようになるだろうと期待しています。
◆監査委員が、実務を指導するということはないのでしょうか。
加瀬 
監査委員監査は、あくまでも「事後チェック」が基本です。監査委員としては、こういう視点でやってほしいという要請はしても、実務面での指導はしません。その点、公会計は最終的に決算統計などとも関係するため都道府県との連携が必要です。制度対応にあたっては、県や地域単位で財政や会計、情報システム部門の担当者を集めたプロジェクトチームを作り、どのように進めるか情報交換してみてはいかがでしょうか。

「知らせる」から「理解してもらう」へ

◆スタート地点に立ったら、次のステップは住民に財務状況を分かりやすく知らせる工夫が必要です。
加瀬 
そうですね。平成19年度決算からは、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)」が求める4つの指標(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率)の公表が始まります。報道によれば、全国の地方公共団体の5分の1が危険水域にあるともいわれ、“第二、第三の夕張市”を防げるかどうかは住民や、我われのような第三者によるチェックにかかっているといえます。これまでも多くの市町村で決算情報の公開が行われています。しかし、会計の専門知識を持たない一般住民にとって財務諸表は難解で、従来型の公会計では実態分析も困難であるなど、住民へ“理解”してもらうという視点が欠けていたと思います。近年、住民監査請求の件数が増えていますが、私は監査請求はできるだけ受理して住民に知らせ、その意見をしっかり受け止めていくことが大切だと考えています。ただ、現状では開示対象はオンブズマンが中心で、残念ながら一般住民にまでは広がっていません。住民によるチェックという自治本来の機能を発揮させるためにも、財務諸表の公表については一般住民にも幅広く理解してもらえるよう心がける必要があるでしょうね。
◆全国9500名の税理士・公認会計士で組織されるTKC全国会会員には、行政監査に携わる方も多いようです。
加瀬 
役目柄、いろいろな市町村の方とお会いする機会がありますが、そうした時に「うちの監査委員もTKCの先生です」ということが多々あります。昔は監査委員というと名誉職でしたが、いまやその責任は非常に重く、専門性が高い仕事だけに誰でもできるというものでもありません。税理士は会計と税の専門家として、納税義務の適正な実現を図ることを使命としています。「税」とは、いわば住民の“共通会費”です。住民は代表者を議会へ送り、そこで決まった共通会費を負担しているわけで、それが適正に使われているかどうかを監視することも税理士の使命の一つといえるでしょう。「財政健全化法」では、早期健全化団体に対して財政健全化計画の策定や外部監査を義務づけています。今後は、外部監査を導入する市町村の増加も予想され、税理士・公認会計士には地域社会からの要請とその期待へ積極的に応えることが求められていくでしょう。責任重大です。私自身も税の専門家、会計のプロとしての経験や知識を活かして、これからも地方公共団体の運営を支え地域社会に貢献していきたいと考えています。

プロフィール
かせ・しょういち 1948(昭和23年)千葉県生まれ、70年4月、銚子市役所入庁。76年12月税理士試験合格、翌年税理士登録。99年、銚子市監査委員に。07年4月、千葉県税理士会副会長就任。税理士として中小企業支援を行うとともに、TKC全国会・中央研修所長(97年6月〜05年5月)を務めるなど後進の育成・指導にも注力している。



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