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特集タイトル


熊本県宇城市では平成17年4月より、企業会計の視点を採り入れた「公会計」に取り組んでいる。資産評価の観点からは、市内全施設の行政コストを算出し『施設白書』を作成。近く、18年度決算をもとに『アニュアルレポート』の公表も予定されている。公会計改革に向けた実務面の留意点、その目指すべき方向は何か――宇城市財政課・天川竜治参事に聞く。


行政運営から行政経営への転換

◆宇城市では新市としてのスタートを機に、企業会計の視点を採り入れた「公会計」にいち早く取り組まれたわけですが、これまでの経緯を教えてください。
天川 
平成17年4月、阿曽田清市長が就任して早々に、市長から「現在の財政状況と資産・負債の状況を知りたい」との指示があったのが取り組みのきっかけです。市政を展開するにあたって、宇城市の実情を把握し、問題点を洗い出して、その解決策を考えていこうということですね。この時に市長から示された期間は、約2か月。この間に、財政係4名が中心となって合併バランスシートと合併行政コスト計算書、また特別会計なども含めた連結バランスシートと連結行政コスト計算書を作成しました。そしてこの結果を、人口・面積が宇城市と類似していて、市町村合併をしなかった市と比較してみました。合併していない市を比較対象に選んだのは、宇城市の本来のあるべき姿を浮き彫りにできると考えたためです。比較の結果、二つの大きな問題点が明確になりました。一つ目が、「同規模団体と比べて資産に対する負債割合が高い」ことです。通常ならば、2対1程度であるべき正味資産と負債合計の割合が、宇城市の場合は1対1という状況でした。これは宇城市の資産は、将来世代の負担を頼りに形成されていることを意味しています。また二つ目が、行政コストのなかで「補助金の比率が高い」ことです。もはや右肩上がりの税収は期待できないなか、10年後には合併特例債や交付税の特例措置がなくなります。平成26年度の将来バランスシートの試算結果でも、このまま何も手を打たなければ負債が増え続け、いずれ市が成り立たなくなるという厳しい現実に直面しました。この結果は、さっそく9月の議会へ報告し、また市民に対しては『広報うき』を通じて宇城市の実情を伝えました。そして監査法人からの改善策提案を踏まえて、職員によるプロジェクトで具体的な改革案を作成し、宇城市の「行政改革」「財政改革」「意識改革」がスタートしたわけです。以来、施設ごとの行政コストを把握する『施設白書』の作成、補助金の適正化などへ取り組み、現在に至っています。

熊本県宇城市
www.city.uki.kumamoto.jp/
不知火海の文化に彩られた美しい自然と、県央の交通の要衝という都市的機能を併せ持つ宇城市。市では、案内・周知・報告といった“従来型”の情報提供にとどまらず、市の現状や問題点を伝えていくための政策広報紙『絆』を四半期ごとに発行している。

◆わずかな期間で財務諸表を作成し、そこから問題を抽出して対策を立てられたのは相当大変だったと思いますが、どんな体制で実施されたのでしょうか。
天川 
普通会計については旧5町がそれぞれバランスシートを作成していたため、それらを統合しました。ただ、特別会計については旧町のそれぞれの担当者に作成をお願いしましたが、この作業がけっこう大変でした。やはり、下水道や農業集落排水などの事業では、それまでバランスシートを作ったことがありませんでしたからね。そこで、担当者を集めて財政課で作成したエクセルシートを配布して、どの数値を入力すればよいかを説明して個々に作成してもらいました。


見えないコストを“可視化”せよ

◆小誌9月号特集において、総務省の青木信之課長も「資産評価が重要」と指摘されていますが、宇城市の『施設白書』について教えてください。
天川 
『施設白書』作成の一つ目の狙いは、市営住宅から学校、公園など市内222か所の施設が提供しているサービスに、一体どれだけのコストがかかっているかを明らかにすることです。これまでにも施設の建設年月日や用途、建物の状況などは管理していましたが、これに加えて建物の減価償却費や人件費、あるいは退職金手当など将来の負担コストも含めて施設ごとの行政コストを算出しました。個々のデータは各施設の担当課の係長や担当者にまとめてもらったため、延べ200名以上が関わった計算になります。作成にあたっては、まず担当者を集めて説明会を開き、『施設白書』作成の狙い、および財政課がエクセルで作成した標準シートへの入力方法などを説明しました。また、作業が円滑に進むよう、財政課にヘルプデスク(作成に関する問い合せ窓口)を設置して各課からの質問に対応したほか、データがまとまった段階でヒアリングなども実施しました。さらにその結果は、個々の施設ごとに分析したほか、「図書館群」「観光施設群」という具合に同種グループごとに分けて、「利用件数」や「コスト」などの要素でマトリクス図を作成し詳細分析を行いました。そうやって分析してみると、個々には見えなかったコストが可視化され、課題点が浮き彫りとなりました。例えば、図書館によって「本1冊当たりのコスト」や「来館者1人当たりのコスト」にも大きな格差が見られました。行政にはこれまで「そのために一体どれだけのコストがかかっているのか」という感覚が不足していましたが、今回の調査で客観的に費用対効果を捉えられるようになりました。
◆その方法は、現状認識には最適な手法ですね。
天川 
そうですね。また『施設白書』の二つ目の狙いとして、コスト削減や施設の統廃合などを行う上での基礎資料とすることです。そこで完成した白書をベースに、市長・助役・収入役、各部長へ向けて、担当課の課長から「調査結果と将来計画」について、プレゼンテーションをしてもらいました。さらに、『施設白書』は最終成果物として市民へ公開する予定です。これは市民への情報開示に加えて、こうした取り組みを外部からの視点で評価することで、職員の自覚をさらに高めて、新たなモチベーションの喚起につながる効果を期待したもので、現在、公開へ向けて準備を進めているところです。


◆補助事業については、いかがですか。
天川 
補助費等については、「宇城市全体で平成21年までに毎年4000万円削減する」との方針を立て、目標達成に向けて各担当課において3年後までの具体的計画を盛り込んだ「補助金評価シート」を事業ごとに作成し、見直しを進めています。コスト削減の方法としては、「一律何%カット」というものもありますが、その場合、廃止を検討すべき事業がいつまでも残り、逆に必要な事業へ十分な予算が配分されないという難点があります。そこで宇城市では、事業ごとにA〜Dの4段階評価を行い、部全体の予算枠は削減しながら、Aランクの事業は補助金を増やし、Dランクは原則廃止するという方法に改めました。その最終判断を行うのは各部長です。
◆なるほど。お話しをうかがっていると、「業績管理」や「戦略的な意志決定」など中長期の視点に加えて、「実施部門への権限移譲」といった民間企業の経営手法を採り入れ、行財政改革に活かしている様子が強く感じられます。
天川 
そうですね。行財政改革への取り組みの第一歩は、企業会計手法によって、資産・負債あるいは行政コストの実態をきちんと把握し、その結果を広く公表することだと思います。阿曽田市長は、よくこういいます。「数字の善し悪しを内部だけで判断してはいけない。大切なのは、外部に宇城市の実情を正しく知ってもらうことだ」と。情報を公表することで、さまざまな意見やアイデアが集まり、職員の意識も自ずと変わってきます。『施設白書』の作成も、最初は「面倒だなぁ」と感じていた職員もいたと思いますが、実際に調査分析を行ってみると「このままではまずいぞ」と、職員一人ひとりが真剣に考えざるを得なくなりますよね。行財政改革には、トップの理解と強いリーダーシップが欠かせないと思いますが、実際に行財政改革の原動力となるのは一人ひとりの職員です。一方的に意識改革を求めるのではなく、職員の主体的な取り組みを引き出す“仕組みづくり”も重要なポイントといえますね。前述の『施設白書』では、最終成果を踏まえて今後、施設ごとの有効活用や利便性向上などを検討するとともに、利用者の動態や近傍地の類似施設の有無などを把握して必要に応じて施設の整理・統合、あるいは民間委託の推進や、指定管理者制度の導入なども考えていく方針です。

外部有識者の有効活用も視野に

◆先頃、『新地方公会計制度実務研究会報告書』が公表されましたが、今後の計画について教えてください。
天川 
宇城市では、すでに18年度決算をもとにバランスシート、行政コスト計算書、純資産変動計算書、資金収支計算書、連結バランスシート、連結行政コスト計算書を作成していますが、今回の研究会報告書に沿ってもう一度内容を見直すつもりです。また、現時点では連結対象に一部事務組合が含まれていないため、今後、一部事務組合に協力をお願いして、何とか平成18年度分の財務諸表から反映させたいと考えています。さらに平成十八年度分から『アニュアルレポート(年次報告書)』も作成する予定です。これまでも財務状況やバランスシートなどを公表してきましたが、こうした財務諸表はある程度の専門知識がないと理解するのは困難です。その点、民間企業では企業の現状や今後の事業計画を分かりやすくまとめた『アニュアルレポート』を公表しています。宇城市もこれに倣って、行政コスト計算書や純資産変動計算書などについても分析を行い、誰にでも分かりやすい形にして市民や金融機関、あるいは他の市町村などへ広く公表していきたいと思っています。
◆それは楽しみですね。最後に、今後公会計改革に取り組む市町村へアドバイスをお願いします。
天川 
財務諸表だけなら財政課の職員だけでも作成することは可能です。しかし、公会計改革は財務諸表の作成が目的ではなく、自らの実情を客観的に捉え、そこから見えた経営課題をどうやって解決していくかを考えることが大切です。内部の視点だけでは見えない部分もあるため、地方公会計制度改革に精通した税理士・公認会計士といった専門的な知識や経験を持つ外部有識者の意見を聞くことが重要だと思います。宇城市でもこれまで監査法人のアドバイスを参考にしながら、自分たちなりにいろいろ考え、工夫して取り組んできました。まだ手探りの状態ではありますが、市民が「宇城市に住んで本当に良かった」と思えるように、これからも頑張っていきたいですね。



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