自治体経営へ会計を活かせ

タイトル

会計というと「帳簿作成のための道具」と考えられがちだが、そうではない。会計は、これからの厳しい時代を生き抜くための智恵と勇気と力の“源”となるものだ。地方公共団体においても、単に財務諸表を作成するだけに止まらず、首長や幹部職員が自治体経営へ会計を積極的に活かすことを考えるべきであろう。「会計は分からない」とぼやいても、何も始まらない。そこで本連載では、自治体経営に役立つ会計を、さまざまな角度から解説する。

財務会計と管理会計

 会計は、外部の利害関係者に公表するための「財務会計(制度会計)」と、内部の管理者層の意思決定や業績管理に資する情報を提供する「管理会計」とに分類できます。昨今話題となっている「地方公会計制度改革」は、いずれかといえば財務会計に関するものです。
 財務会計の場合、多数の利害関係者が理解しやすい情報を提供するという観点から、法規制等で細かな会計基準を定めて公表情報の質の一定化を担保しています。これに対して管理会計は法規制とは関係なく、その組織体の管理者層のニーズによって、さまざまな手法がとられています。
 とはいえ、両者は互いに連動するもので、その関係は“原因”と“結果”にあたります。つまり、事業活動の実態を把握し改善につなげるために使うのが「管理会計」であり、その成果を外部へ報告するために使うのが「財務会計」です。当然、結果をよくするためには原因を変える必要があり、自治体経営でも管理会計の重要度が増しているわけです。
 この管理会計は、大きく「意思決定会計」「業績管理(評価)会計」の二つに区分されます。前者は、管理者層が意思決定を行うに際して必要なデータや情報を提供するものであり、後者は、意思決定の結果、計画・実施した成果について「計画通り進捗しているか」「目標達成のための課題は何か」などを検討するために必要な情報を提供するものです。これらは、「マネジメントサイクル(PDCA)」を実施する上で評価の尺度として活用されるものです。
 なお、本稿では事業活動の検討にあたり最初に必要となる「意思決定会計」について説明します。

意思決定に会計を役立てる

 さて、地方公共団体に限らず、組織ではさまざまなデータに基づいて将来とるべき行動を決定します。その場合の意思決定は通常、下の図のようなプロセスで実行されます。

 このうち、意思決定会計は主に「3.代替案の数値化」の部分に関わるものです。財務会計や業績管理会計が会計データから情報を得るのに対して、意思決定会計は会計データに限らずさまざまな情報を積み上げていくという側面を持っています。その場合でも、過去に秩序正しく記帳されている会計データは参考になります。
 また、ひと口に「意思決定」といっても、その組織体の構造をも変える「戦略的意思決定(構造的意思決定)」と、構造を変えるまでもない日常的な諸問題を解決するための「戦術的意思決定(業務的意思決定)」とがあります。例えば、大きな政策判断が伴う、新しい施設の建設や新たな施策を実行する場合などが「戦略的意思決定」であり、これに対し「戦術的意思決定」は、施設管理を指定管理者へ委託する場合の有利不利の意思決定などがあたります。
 地方公共団体が公共施設を建設する場合、当初の建設費については入念に検討し、入札にかけて最小限の支出で賄うよう努めます。しかし、建設後の人件費を含む維持費用まで考慮されることは少なく、また将来見込みの検討も甘いように感じられます。地方空港の利用者数が当初予定に達しないケースなどは、まさにその典型例といえるのではないでしょうか。
 民間企業の場合、こうした設備投資は原則として将来のキャッシュ・フロー(資金の流れ、あるいは結果としての資金の増減のこと)で賄います。地方公共団体でいえば、租税収入や国からの補助金等になります。

未来予測していますか?

 経済のグローバル化や少子高齢化など日本社会を取り巻く環境が大きく変わり、市区町村でも今後、「戦略的意思決定」を求められることが増えると思われます。では、そこで何に留意すべきでしょうか。
 まず、設備投資額の見積りです。ここでは、維持期間(例えば20年)内にかかるであろう維持管理コストとともに、ほかからの負担による流入額(例えば、合併特例債による償還負担額の一部負担など)を考慮します。このように全体像を把握した上で、将来にわたるコスト負担に財政面で耐えうるのか、あるいは別の選択肢があるのかを検討すべきです。さらに金銭換算されるもの以外にも、環境変化(人口予測・経済予測など)を加味して判断することが必要です。
 なお、民間企業が設備投資を決定する時には、「時間価値」を考慮する場合としない場合があります。この時間価値とは、投資を行ってからその成果が回収されるまでの間の価値の変動をいいます。例えば、現在受け取ることのできる1万円と、1年後に受け取る1万円では価値が異なります。なぜならば、1万円を運用すれば金利が得られるためです。そこで、将来の現金流入額を割引率で現在価値に置き換え、それを投資額と比べて回収余剰があるかどうかを検討するわけです。
 ただし、地方公共団体では将来の流入額よりも、将来にわたって各年度で支出するであろう費用を予測して、将来の財源で賄えるかを検証すべきであり、あえて割引現在価値にする必要性は乏しいと思われます。

 こうした戦略的意思決定は、従来の政策決定でも同様の手法で行われていました。しかし、このままでは、義務的経費が上昇する一方で税収は下落し、自由に使える経費(政策的経費)の幅はますます縮小していくことになります。そのため今後は、将来のコストとともに将来の人口・税収を厳しく予想し、将来の税収等で負担できるのかを考えることが、従来にも増して重要になっていくでしょう。
 とはいえ、未来を確実に予測することは不可能です。重要なのは仮説が正しいかどうかではなく、差異が生じればそこから問題点や課題を抽出し、これを是正すべく新たな意思決定をしていくという姿勢なのです。

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