自治体経営へ会計を活かせ

タイトル

 『地方公共団体における行政改革の更なる推進のための指針』(平成18年8月31日/総務省事務次官通知)において、地方公共団体では、〈発生主義の活用及び複式簿記の考え方の導入を図り、貸借対照表、行政コスト計算書、資金収支計算書、純資産変動計算書の四表の整備を連結ベースで、「基準モデル」または「総務省方式改訂モデル」を活用して、公会計の整備の推進に取り組むこと〉とされました。
 しかしながら、その目的は未だ十分理解されているとはいえない状況です。
 地方公会計制度改革の目的は、基本的には単記式簿記を複式簿記に変えることで、資産や負債、コストを正確に把握し、その結果を活用することにあります。
 民間企業会計との違いは、現金以外の「資産・負債」および「純資産」のストック情報(土地、建物、金融資産・負債等)の把握が困難である点です。例えば、過去に普通建設事業で建物を建てた場合、土地取得費などを含めた費用総額について分からない自治体が数多く見られます。
 また、「減価償却費」「引当金」「資産評価」などの現金収支を伴わない取り引きを認識しないことから、正確なコスト情報の把握も困難です。例えば、「資産」について、どれくらいの減価償却がなされているか、「退職給与引当」はどれぐらいかなど決算書には示されません。このように、地方公共団体にはどれだけの資産・負債があり、どれだけのコストがかかっているかが見えにくいのが実状です。
 しかし、四つの財務書類も万能のツールではなく、人間に例えれば健康診断の検査結果にあたります。健康状態を改善するには、検査結果を知るだけでは意味がなく、結果に応じていろいろな対策をとることが肝要です。では、自治体の経営状態を改善するには財務書類をどのように分析して、その結果をどう活用すべきなのでしょうか。
 これについて、熊本県宇城市の事例をもとに考えてみます。

同規模団体と比べてみる

 熊本県宇城市は、平成17年1月に5町合併により誕生した新設市です。この際、市民に分かりやすい説明を行うため、その一つの方法として「資産」「負債」「正味資産(純資産)」の分析を行いました(図1)。これは、宇城市が置かれている全体像を把握するのに非常に有用でした。また、宇城市の状況を正しく把握するため、合併していない同規模の団体とベンチマークしました。

 合併直前の、平成15年度の旧5町を合算したバランスシートでは、資産合計が837億円に対して、資産の財源としての正味資産は423億円、負債合計が414億円となっていました。つまり、「資産(行政サービス提供の能力、将来キャッシュフロー)」の財源である「正味資産(国県負担、過去または現世代の負担)」と、「負債(将来世代の負担)」の割合が、約1対1となっていたわけです。これに対し、ベンチマークとした団体では2対1の比率であり、宇城市の将来世代の負担が極めて高い状況にあることが判明しました。
 そこで宇城市では、資産債務改革に向けた具体的な取り組みを検討するため、「中期財政計画(平成17年度〜26年度)」に基づき、総務省方式による平成26年度末のバランスシートを推計しました。
 これによると、総資産に対する負債の比率(純資産比率)は一段と悪化するという結果となりました。「中期財政計画」には、すでに合併による合理化効果が盛り込まれていましたが、将来世代の負担をできる限り軽減するとともに、安定的・継続的な行政サービスを提供するには、さらなる行財政改革が必須であると判断し、純資産比率の低下などを目標値(図2)に採用することとしました。

分かりやすい報告を心がける

 また、宇城市では改革状況の公開にもいち早く取り組み、平成19年度には「総務省方式改訂モデル」による連結財務書類を作成して「宇城市包括年次報告書」(アニュアルリポート)を公表しました(詳細はホームページをご覧ください)。
 このアニュアルリポートは、市民や議会、職員、投資家などの利害関係者に向けて、事業概況や財政状態、運営状況など市の経営内容を報告するものとして位置付けています。分かりやすい財務状況の公表だけではなく、将来的な自治体統一開示基準による財政状況の共有化を念頭に置き、自治体経営の目標達成に向けた「行政経営」の羅針盤としての機能を持たせることも意図しています。
 地方公共団体が、財務状況やバランスシートなどを公表しても、これら財務書類はある程度の専門知識がないと理解するのは困難です。その点、民間企業では企業活動の現状や今後の計画などを分かりやすくまとめたアニュアルリポートを公表し、投資家を中心に評価を受けています。写真やグラフなども有効活用して分かりやすさを心がける姿勢は地方公共団体にとっても参考になるでしょう。
 なお、宇城市がアニュアルレポートを公表した後、香川県さぬき市のホームページに合併類似団体の財務書類の分析結果として宇城市の例が取り上げられました。これは自治体の財政状況の共有化につながるものであり、このような動きが全国的に広がることを期待しています。
 アニュアルリポートを公表したといっても、現時点では関係者からの反響はほとんどなく、市民の誰もが理解できる、関係者が活用できるという点ではまだまだ不十分だと考えています。また、職員一人ひとりに、財政の分析結果を情報公開する意義を浸透させることも今後の重要テーマです。
●宇城市 www.city.uki.kumamoto.jp/

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