電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【巻頭言】

小室

 昨年度、総務省から『新地方公会計制度実務研究会報告書』が公表され、地方公共団体においても、いまや民間の企業会計に近い考え方である「貸借対照表」「行政コスト計算書」「純資産変動計算書」「資金収支計算書」の4つの財務書類(以下、4表)の作成・整備に向けた取り組みが求められています。
 しかし、ここでぜひ忘れてならないのは、「4表の作成はゴールではなく、あくまでも始まりだ」ということです。
 地方公会計改革の大きな目的は、〈発生主義・複式簿記〉による財務書類を作成することで、見えにくいコストや正確なストックを民間に近い手法で把握し、結果を将来の行財政経営へ活かすことにあります。従来の〈現金主義・単式簿記〉では、単年度ごとの支出ベースでの決算しか把握できず、例えば退職金の引当金など将来発生する費用や、建物などの減価償却を正しく把握することができないため、「いま資産・債務の実態はどうなっているのか」「将来負担に関していくら必要となるのか」といった全体を網羅した費用を把握できません。
 だからこそ、まずは4表の作成による実態の把握が必要なのです。
 その上で重要なのは、その結果を分析し、財政状況を悪化させている原因を追究し、効果的・効率的な行政運営を進めるための打ち手を考えていくことです。そうでなければ、4表を作成する意味はありません。
 地方公会計改革では、時価ベースでの売却可能資産や税の徴収不能額の見込みなど、より広い情報の開示が求められています。この時、もしも住民や議会から「他団体に比べて住人1人あたりの地方債の残高が多い」と指摘された場合、皆さんはどのように答えるでしょうか。一般に、「借金=悪」というイメージが強いと思われますが、きちんと分析をしていけば、「地方債発行の目的が、インフラ整備といった固定資産の増加」の結果なのかもしれません。その場合、「将来の世代に対して有益なものであれば、将来世代が負担することは必ずしも問題ではない」とも考えられます。
 ほかにも分析・活用の方法はいろいろあります。例えば、指定管理者制度など民間活力の活用を考える場合、「地方公共団体が運営する場合のコスト」と「民間へ委託する場合のコスト」を同じ条件で比較することにより、行政がサービスを継続すべきか、民間委託すべきなのか検討する際の客観的な判断材料となります。
 あるいは税の徴収不能額を貸借対照表で開示し、滞納額削減への対策を検討するといった活用事例も公表されています。このように他の自治体や民間企業と比較・分析を行い、事業の的確な評価や改善を行うことが不可欠なのです。
 しかしながら、4表の分析・活用まで至っている団体はまだまだ数少ないのが現状です。公会計をこれからの行政経営にどう活かしていくのか──いま地方公共団体が真剣に考えていくべき大きなテーマの一つといえるのではないでしょうか。