電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【寄稿】

タイトル

 いま、市区町村では「クラウド」という言葉が注目を集めています。
 総務省では、現在、クラウドコンピューティングを電子自治体の基盤構築へ活用するため「自治体クラウド開発実証事業」へ取り組み、また、昨年7月には「自治体クラウド推進本部」を設置しました。ここでは、自治体クラウドの全国展開に向けて、財政支援の在り方や個人情報保護策など、具体的な検討が行われています。さらに総務省では今後、地方自治体の長に対して、クラウドへの移行予定時期や業務改革の内容などを記した「電子自治体最適化計画(仮称)」の作成を努力義務とする方針も明らかにしています。
 こうしてみると、平成23年はクラウドを意識したシステム検討が本格的に始まる「自治体クラウド元年」といえるでしょう。これにより業務の最適化も一気に進展することが予想され、さらなる電子行政の推進も期待されます。
 そこで、この機に改めて強調したいのは、市区町村にとってクラウドとは行政経営を支える“仕掛け”や“道具”だということです。

なぜ、クラウドを推進するのか

 国が自治体クラウドの活用を支援する背景には、人口減少や少子高齢社会など日本の社会構造の変化と、地方財政の深刻な状況があります。
 市区町村では、これまでにも「行財政改革」によって財政圧縮や組織・機構の簡素化、効率化を推し進めてきました。しかしながら、地方財政の見通しは依然厳しい状況で、そのなかで社会構造の変化に対応した行政サービスを維持・発展させるためには歳出増も必至であり、なお一層の行財政改革が求められます。
 振り返ってみれば、行政経営は常に社会環境の変化とともに変わり、また、それを支える情報システムも最新ICTを採り入れながら進化してきました。
 市区町村における情報化の歴史は、昭和35年に大阪市に電子計算機が導入されたことに始まり、昭和38年の大幅な税制改正を機に本格的に広まりました。背景には、日本経済の急激な成長に伴う行政需要の飛躍的な増大などの事情がありました。その後、技術革新とともに、ICTの活用範囲も、大量・定型業務を中心とした集中処理から窓口サービスなど少量・多種・非定型業務へ、行政内部事務の効率化から住民サービスの向上へ、と広がりました。そしていま、新たな仕掛けとして登場したのが「クラウド」です。
 いま多くの市区町村では、財政が逼迫していることもあって、クラウドによるコスト削減へ大きな期待を寄せています。確かに、コスト削減は各団体に共通する重要課題ですが、地方公共団体としてのミッションを考えると、それだけでは不十分といわざるをえません。
 いま、日本が直面している経済環境や社会構造の変化を止めることはできませんが、変化を先取りしてそれに対処する組織や仕組みをつくることはできます。その組織や仕組みを支える“仕掛け・道具”が「クラウド」なのであり、その推進にあたっては今後の社会環境の変化を見据え、10年後、20年後の地方行政のあるべき姿を考えることが肝要です。
 次々と新しい技術が誕生するいま、10年後にはクラウドも古い技術になっているかもしれません。しかし、市区町村にとって「いかに最少のコストと最少の労力で最大の効果を発揮するか」は不変のテーマであり、そのために継続して「業務の最適化」への取り組みを支えることができる“仕掛け・道具”をどう選択していくかが重要です。

クラウドがもたらすもの

 平成13年に「e-Japan戦略」が公表され、以降、市区町村では電子自治体の構築が進んできました。
 それから10年、電子自治体の基盤整備は進んだものの、サービスの利活用の点ではいまだ多くの国民がその成果を実感するに至っていません。
 また、行政効率の向上という点でも、特定ベンダーへの過度の依存などによる情報システム関連費用の高止まり、あるいは業務ごとにシステムを構築してきたことによる非効率性といった課題が山積しています。そのため、「業務改革としての業務・システム最適化」「行政情報システムの全体最適化」、そしてクラウド活用による「システムの共同利用や統合・集約化」が喫緊の課題となっています。
 平成22年6月に策定された『新たな情報通信技術戦略工程表』では、〈行政サービスへのアクセス向上〉策として、コンビニエンスストアや郵便局などに設置された行政キオスク端末による各種証明書(住民票、印鑑証明、戸籍謄抄本など)交付等のサービスを拡大し、平成25年までに国民の50%以上が利用できるようにするほか、〈全国共通の電子行政サービスの実現〉に向け「国民ID制度」と「企業コード」を導入して、国と地方のバックオフィス連携と業務プロセスの改革等を推進する──などの方針を打ち出しました。平成23年度にはロードマップ等も示される計画で、今後、市区町村では業務改革やクラウド活用と並行して、これら電子行政サービスの実現にも取り組んでいくことになります。
 このように活用促進へ着々と準備が進むクラウドですが、これには明確な定義はなく、現状では定義も内容も異なる多種多様なクラウドが世の中に溢れかえっているという状況です。また、「ASP/SaaS」に加え、「PaaS」「IaaS」といった新語も続々と登場していますが、いずれにも共通するのは、クラウドとは「インターネット等を経由して、コンピュータやソフトウェアを利用する情報システムの活用法」だということです。
 これによって、行政の情報化も“所有”から“利用”へと大転換することは間違いありません。
 TKCでは、昭和41年の創業以来、「地方公共団体の行政効率向上のため受託する計算センターの経営」を事業目的の一つに掲げ、行政効率の向上による住民福祉の増進を支援することを目的に情報サービスを展開しています。また、早くからパッケージシステムを指向し、財政規模の小さい団体でも「最適なコストで、最適な業務プロセスを実現できる」ことを追求してきました。
 特に、「分散処理方式」という独自のアウトソーシングサービスでは、日々の窓口業務は庁内のTASKシステムで行い、課税計算や帳表といった大量一括処理は、市区町村とネットワークでつながったTKCのホストコンピュータが分担することで、市区町村が業務に応じてコンピュータ資源を柔軟に利用できる環境を提供してきました。そしていま、最適なコストで、最適な業務プロセスを実現するという開発思想は、「TKCクラウドサービス」へと引き継がれました。
 これまで、当社では「アウトソーシングサービス」「庁内で使う業務システム」「ASPサービス」の三つを提供してきました。しかし、利用するお客さまの視点で考えれば、どんな仕掛け・道具なのかよりも、何をするか・何ができるかが重要です。そこで、「TKCクラウドサービス」によって従来サービスを一つに統合し、行政内部の事務処理から住民サービスまで、一連の業務プロセスがシームレスにつながることを目指しました。
 これにより、いま市区町村に求められている、(1)住民サービスを効率的に提供するためのシステムの標準化や共同利用、(2)システム間連携を用いたワンストップサービスの実現と個人情報の安全な運用、(3)個々のシステムを組織全体として効率的かつ安全に構築・運用するためのITガバナンスの確立──を支援する当社のサービス基盤が整うことになります。

キーワードはデータ連携

 さて、行政の情報化を考える上で、今後重要なキーワードとなるのが「データ連携」です。
 今年1月にスタートした国税連携により、「国・地方のシステム連携」への第一歩を踏み出し、数年のうちにはバックオフィス連携も具体化します。このことは、日本が目指す成長戦略の骨格づくりにほかなりません。それを構成する要素の最少単位は、市区町村の職員一人ひとりが行う事務です。逆にいえば、一人ひとりの事務がスムーズに連携しなければ、総合窓口もワンストップも、世界最先端のIT国家も実現できないということになります。つまり、すべての基盤は各市区町村の意思決定から始まるのです。
 当社では、こうした市区町村の業務プロセスの連携を支援するため、かねてより「一つのデータ」が、「ペーパーレス」で、業務プロセスに沿って、複数業務でシームレスに利用・展開されていく─まさに業務を分断しない“一気通貫”の仕組みの提供に努めてきました。
 この“一気通貫”の仕組みを住民税主管課の業務プロセスで概観すれば、図2のようになります。

 住民税主管課の業務は、大きく課税業務と収納業務の二つに区分できます。
 まず、当初課税では、〈給与支払報告書や確定申告書等の課税資料の収受〉→〈その資料の分類や内容のチェック〉→〈入力データの作成〉→〈基幹税務システムでの電算処理〉などを経て、〈納税者への納税通知書の発送〉まで一連の業務を行います。一方、収納業務では、納税者が金融機関等を利用して納税したデータに基づき、〈収納消込処理〉や〈還付・充当処理〉、さらに〈滞納整理〉などの業務を実施します。当社では、こうした煩雑な住民税主管課の業務を、個々の業務システムで分断することなく、データをシームレスに連携させることで、行政効率の向上を支援してきました。
 そして今年、「国税連携」が始まったことで、課税資料が“紙”情報から“電子”情報に変わり、〈申告データの受付〉から〈納税通知〉までの当初課税業務は、今後一段と最適化が進むことになります。
 つまり、市区町村では、国税庁から送られてくる所得税確定申告書データを「TKC行政ASP/地方税電子申告支援サービス」を介して受け取り、その申告データから〈当初課税計算〉に必要な各種情報を生成します。そして住民税主管課から、他部門へとデータが引き継がれ、そこでまた新たな価値を生み出していくというわけです。
 また、こうした業務プロセスの連携が進むことの効果として、組織全体の情報共有が進み、職員一人ひとりの仕事や行動が変わり、最終的には住民や地域との協働によるダイナミックな地域経営へつなげることも可能になるでしょう。それに貢献できることは、我々として最上の喜びです。

 昨年、「住民基本台帳法の一部を改正する法律」(住基法改正)が交付され、施行後は外国人住民も住基法の適用対象となります。これはまさに社会環境の変化を映す制度改正であり、いま、日本が明治維新以来ともいわれる経済社会の大転換の波を、国をあげて乗り切ろうとしていることが実感される出来事です。
 作家・司馬遼太郎氏は、『坂の上の雲』のあとがきで、明治という「(前略)時代人としての体質で、前をのみ見つめながらあるく。のぼっていく坂の上の青い天にもし一朶(いちだ)の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼっていくであろう」と述べています。
 市区町村にとって、坂の上の「雲」とはクラウドではなく、住民福祉の増進や活力ある地域の姿でしょう。
 その意味では、今年は「クラウド元年」であるとともに、未来を目指す「新たな行政経営の幕開けの年」といえるのではないでしょうか。