電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

電子申告の実施団体が全国へ広まり、今春にはさらに45団体ほどがサービスを始める。だが、地方税の電子化の本質は、単に電子申告を実現することではない。これを出発点として、業務をダイナミックに変化させ、新たな行政サービス創造へつなぐ経営改革だ。本格的な発展段階を迎えたいま、ためらっている時間はない。地方税の電子化の意義と今後の展望について、総務省自治税務局・大村慎一税務管理官に聞く。

──個人住民税における公的年金等支払報告書の電子化などがトリガーとなり、1,200団体がeLTAXを導入し、このうち新たに239団体が電子申告を開始するなど、地方税の電子化もいよいよ本格的な発展段階を迎えました。
大村
 そうですね。市区町村の約7割が地方税の電子化の“スタートライン”に立ったわけで、これは大変にエポックメイキングなことと思っています。ただ、電子化の中核である電子申告サービスにまで踏み出したのは、258団体にとどまっています。これは限られた時間のなか、公的年金等支払報告書の電子化の円滑な実施を優先するところが多かったためといえるでしょう。しかし、納税者の利便性と市区町村の業務効率化・費用対効果を高めるためには、公的年金等支払報告書だけでは不十分です。電子申告や給与支払報告書の電子化といった、eLTAXの基本的なサービスを一日も早く実施することが期待されます。

なぜ、地方税の電子化が必要か

──当社は、全国の有力システムベンダーと地方税電子申告の普及促進へ取り組んでいますが、各社の意見を聞くと、市区町村が電子申告サービスを実施しない理由には、費用対効果とともに電子申告に対する理解不足があるようです。
大村
 ご指摘の通りですね。我々もいろいろな機会を通じて市区町村の皆さんへ電子申告の説明を行い、早期実現をお願いしていますが、特に意思決定者である首長さんにもっと理解を深めていただく必要があると感じています。なぜ「地方税の電子化」が必要かといえば、それは根本的には“時代の要請”だということです。いまやインターネットは情報の入手・発信、コミュニケーション、音楽や映像などアミューズメント、ネットショッピングなど幅広い用途に活用され、人々の日常生活や企業活動へ深く入り込んでいます。そうした社会環境のなかで、行政手続だけが未だに紙ベースと窓口対応というのは、最早通用しません。電子申告はすでに「標準的に提供されるべき行政サービス」になったと考えています。この点をぜひご理解いただきたいと思います。実際、電子申告の利用率は、サービス実施団体の増加とともに年々拡大しています。平成21年1月5日現在で、都道府県の法人2税(法人住民税・事業税)および法人市町村民税、償却資産の電子申告数は75万1,742件と、運用開始団体の総申告件数の約12.6%となりました。これは前年同期比の2.65倍にあたります。絶対値としては決してまだ高くはありませんが、山形県(29.84%)や島根県(29.41%)、田辺市(20.63%)のように急速なペースで利用率を伸ばす団体も登場しています。多くの市区町村がサービスを実施していない段階でこれだけの伸びがあるということは、納税者の潜在的需要の強さの表れといえるでしょうね。
──確かに法人にとっては、国・都道府県・市町村へ同時に電子申告できなければ、メリットを実感できませんからね。eLTAXへ参加した団体がサービスを開始すれば、これまで様子見をしていた法人も一挙に電子申告を利用するようになるでしょう。一方、利用率が高まれば行政の税務事務の効率化も進みます。
大村
 そうですね。現在、地方税の申告納付は年間約1,620万件(平成18年度課税状況調)に上り、このうち法人2税の申告件数が930万件、法人市町村民税は370万件となっています。また、市区町村の税務事務で最も枚数が多い課税資料は給与支払報告書で、全国で5,000万枚ほどにのぼるといわれています。そのため毎年1月になると、担当部署は受付や申告内容の確認、パンチ入力、入力内容の確認といった作業に忙殺され、なかには会議室を借り上げ、入力業務を外部委託したり臨時職員を雇って作業にあたる団体もあります。地方税の電子化で、こうした事務負担が軽減されるとともに、課税ミスが極小化されるという効果も期待できます。例えば、国税である所得税の電子申告データを受け取るために、現状では税務署がe─TAXの電子データをわざわざ紙に印刷して市区町村へ渡し、市区町村ではそれを持ち帰ってパンチ入力し、再び電子データにしています。しかし、〈電子データ→紙→パンチ入力→電子データ〉という作業を経ることで、漏れや入力ミスの発生といった危険性も高まります。こうした意味でも、国税・地方税のデータ連携をぜひ実現したいと考えていますが、そのためにもすべての市区町村がeLTAXへ接続して、地方税の電子化を進めることが必要です。

何をもって費用対効果というか

──また、「費用対効果」ということでは、厳しい財政状態にあるとはいえ、行政の社会的役割を考えると、その視点だけでサービスをする・しないを判断していいのだろうかとも感じています。
大村
 厳しい財政状況のなか、費用対効果面に目が行くのもやむを得ないのですが、自治体関係者には、まず納税者の利便性を向上する観点に立ち、地方税の電子化は〝時代の要請〟であることを考えていただきたいとお話ししています。なお、参考となる資料として、平成20年8月に愛知県の市町村がeLTAX導入の費用対効果について共同研究した『エルタックス導入に係る報告書』があります。これによれば、課税事務の効率化として想定されるのは、(1)申告書の受付窓口や郵送受付の事務が原則不要になる、(2)申告データがシステム的にチェックされることで審査事務が軽減する、(3)申告データが基幹システムへ取り込まれることで入力事務・データパンチ等の外部委託費用(人口30~40万人規模で年間1,400万円程度)が軽減する、(4)基幹税務システムと連携させることで課税資料の検索・管理・保管事務の軽減が可能になる──などです。また、コスト削減効果を試算したところ、電子申告の利用率が50%になった場合、名古屋市を除く県下34市24町2村全体で年間約3億4,000万円が削減され、これと導入コストを比べるとほとんどの団体で費用対効果がプラスになるそうです。ただし、この効果は公的年金等支払報告書の電子化だけでは不十分で、電子申告や給与支払告書の電子化の導入と合わせてこそ可能なものと結論付けています。なお、この試算には、eLTAX導入・運用に係る財政支援措置は考慮されていないようですから、実際の効果はさらに大きいものと考えられます。
──費用対効果を“見える化”している点で、興味深い資料ですね。
大村
 もう一つ、この研究で面白いのは、納税者のコスト削減効果まで計算していることです。こちらは全体で6億3,000万円になるとしています。各法人の申告事務費を積み上げるのは困難であり仮定の試算ですが、課税側ばかりではなく納税者にまで視野を拡げて効果を数値化した点は評価されるでしょう。一段と厳しさを増す財政状況を考えると、どうしても行政内部の経費削減に目が向きがちになりますが、こうした時代だからこそ、課税庁のスタンスとして納税者が負担する経費のことも考えてほしいですね。

図表

──おっしゃる通りですね。
大村
 地方税の電子化を語る上で経費の問題が避けて通れない議論だということは十分理解しています。特に、レガシーシステムを使っている団体では、制度改正一つに対応するだけで基幹税務システムの改修に膨大な費用が発生しますからね。情報化投資全般をいかに安価に効率的に行うかは、すべての団体に共通する課題であり、今後は標準化・共同化を巡る議論もさらに活発になると予想されます。例えば、LGWAN─ASP方式は一種の「民活式共同利用型モデル」といえ、eLTAXだけではなく、基幹税務システムなどにも、こうした技術の進展をうまく応用していけないかと期待します。

新たな税務業務とサービスの展開へ

──地方税の電子化ということでは、国税連携への期待も高まっていますが、これについてはいかがですか。
大村
 先ほど述べた「業務の効率化」「人為的ミスの極小化」に加え、最終的には「納税者の利便性向上」の観点からも、eLTAXを通じて電子データを授受できる国税・地方税連携が望ましいと考えています。これについては、近年中できるだけ早期に、e─Taxの所得税確定申告データおよび紙ベースの確定申告書(KSKデータ)をeLTAXへ電子的に送ることができないか、国税庁、地方税電子化協議会と協議・検討を行っているところです。これが実現すれば、当面のeLTAXのサービスが一通り揃うことになると考えています。また、電子データでの連携が可能になれば、従来のような「紙」で受け渡しを行うといった事務は順次廃止されることが想定されます。もちろん、適正な課税に支障がない前提においてですが、地方税の電子化が、これまでの業務をより効率的な方向へ変えていくことになります。そのため、どのように仕事のやり方を見直すのか、その場になって混乱が生じないよう、いまのうちから十分検討していただく必要があると思います。
──地方税の電子化の普及・促進策として、今後のご計画は?
大村
 当面、電子申告等のサービス開始団体を増やすことが第一です。eLTAXの加入・運用の経費については、これまでにも地方交付税措置を行ってきました。例えば、平成20年度は、標準団体(人口約10万人規模)で1,000万円程度を算入しています。地方税の電子化をさらに一段と推進すべく、平成21年度において財政支援を大幅に拡充する方向で検討しています。
──それはグッドニュースですね。納税者の利用促進の点ではいかがですか。
大村
 納税者にとって一番のメリットは、電子申告の受け皿となる市区町村が増え、全国どこの団体に対しても電子申告ができることだと思います。現状では、公的年金等支払報告書の電子化のみという団体が多いので、まずはeLTAXに参加した1,200団体から、率先して電子申告サービスを開始していただきたいと考えています。その意味でも最近注目しているのが、京都府や静岡県、岩手県、和歌山県、岐阜県など県全体で電子申告の実現へ取り組もうという動きですね。特に、和歌山県ではすでに県内21市町村(導入率73.3%)が参加していますが、今年中には導入率100%になるのではないでしょうか。ASP方式か、共同方式かは別にして、県全体で電子申告を推進するというのは、納税者にとっても利便性が大幅に高まることであり、今後の動向に期待したいと思います。一方、納税者である法人や税理士の皆さんに対する利用促進運動も強めていかなければいけないと考えています。
──TKC全国会では、地元の税理士から市区町村へ電子申告の早期実現を要請していますが、総務省としては何か周知広報の計画はあるのでしょうか。
大村
 最終的に電子申告を開始するかどうかは、経営トップである首長さんの決断にかかっています。そのため、各都道府県のみならず、税理士会や商工会議所など各方面と一緒になって、電子申告の必要性を直接訴えていくことが重要だと考えています。地方税の電子化へ、まだ多くの乗り越えるべき課題があるとはいえ、7割の市区町村がeLTAXへ参加したことは大きな前進です。ただ、あくまでもメインは電子申告であり、給与支払報告書の電子化です。これをいかに増やすか、我々にとってもこれからが正念場ですね。時間的制約、予算的制約、人的制約、技術的制約など、市区町村が抱える事情はさまざまです。しかし、地方税の電子申告はすでに「標準的な行政サービス」になりました。納税者の関心も、「電子申告をやるかどうか」ではなく、「いつからサービスが始まるのか」に移っています。首長さんには、こうした現状を認識していただき、厳しい財政事情にあっても、納税者のニーズに的確に対応できるよう、地方税の電子化へ大きく舵を切るご決断をいただけることを強く願っています。