電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

未曽有の経済危機にあるなか、いま日本の社会全体が大転換を迫られている。地方公共団体も、これまでの延長線上で財政再建策を考えるのではなく、ピンチをチャンスと捉えて5年後、10年後を見据えた大胆な経営改革が必要だ。それにはまず財務情報を“見える化”して問題点を把握し、解決策を考えることが欠かせない。地方公会計制度の進捗状況について、総務省自治財政局財務調査課・高田寛文課長に聞く。

──世界的な金融・経済危機により企業の経営状況が急速に悪化し、景気の下降局面の長期化も懸念されることから、今後の地方財政への影響が気になります。
高田
 そうですね。「100年に1度」といわれる経済危機は地方公共団体にとっても深刻な問題で、地方財政や行政運営へ大きな影響を与えています。実際、平成21年度の地方税収の見込みは、20年度当初段階と比べておよそ4兆円の減になる見通しです。一方、こうした時代だからこそ、行政の役割として景気対策や雇用維持・創出などによる地域経済の下支えへの社会の期待が高まっています。その意味では、地方公共団体はこれまでにも徹底した行財政改革に取り組んできましたが、今後、経済対策と財政健全化の両立を図る、難しいかじ取りを迫られることが予想されます。

公会計改革の意義

──そうしたなか、いま地方公会計制度改革が進められていますが、改めてその意義について教えてください。
高田
 公会計改革は、地方行財政の構造改革という大きな流れのなかで、その意義を理解する必要があると思います。背景としては主に2点挙げられます。一つが、地方分権改革の進展によって地方公共団体の担う業務範囲が広がり、地域や住民に対する「説明責任」を果たしていくことが一層重要になったことです。この説明責任を果たす手段の一つが、「発生主義・複式簿記」の考え方を採り入れた四つの「財務書類(貸借対照表、行政コスト計算書、純資産変動計算書、資金収支計算書)」の作成であり、これによって財政状況をより分かりやすく、かつ明確に住民などへ広く公開しようというものです。また、二つ目が、「財政健全化・財政再建」への取り組みです。いま地方公共団体においては、厳しい財政状況のなか、必要な行政サービスの水準をいかに維持・向上するかが重要課題となっています。住民にとっても、自分が暮らすまちの財政状況や行政サービス水準がどうなるのかは大きな関心事で、将来にわたって財政の健全性が担保されることは、住民に“安心感”を与え、ひいては行政に対する“信頼感”につながります。そのように住民の期待に応えていく上でも、公会計は非常に重要な役割を果たします。

──おっしゃる通りですね。
高田
 指標を作成・公表するということでは、昨年から「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)」が施行されています。これにより21年度以降は、「健全化判断比率(実質赤字比率、連結実質赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率)」のいずれかが一定水準を上回ると、財政健全化計画などの策定が義務づけられます。その場合、事務事業の見直しや組織の合理化などによる歳出削減に加え、未利用で売却可能な公有資産は売却して歳入の確保を図っていくことが必要となります。この時、資産の現在価値を把握していなければ、資産売却による歳入見込額を財政健全化計画に計上できず、それに代わる歳出抑制を行わざるをえないということも十分考えられます。この点、公会計では、まず公有財産台帳を整備し、資産の実態を把握して、売却可能なものは売却可能価額で評価します。公会計の整備は、いまのところ義務として法的に位置づけられたものではありませんが、財政健全化法の取り組みと公会計の整備は車の両輪のごとく対をなすものであり、一体的に推進していくことが重要です。さらに三つ目が「資産・債務改革」で、これについても21年度までに資産売却や有効活用など、改革の方向性と具体的な施策を策定することが求められています。そこで、公会計の整備もこれらと合わせて進めるため、取り組みが進んでいない団体、町村、人口3万人未満の都市についても当初目標(23年度)を前倒しし、すべての地方公共団体に対して21年度までに「基準モデル」「総務省方式改訂モデル」のいずれかを導入して、連結ベースでの財務書類を作成・公表することを要請しています。

全団体で21年度中の整備を

──公会計の整備は現在、どの程度まで進んでいるのでしょうか。
高田
 毎年3月末時点で調査を実施しているため、いま分かっているのは1年前のデータとなりますが、昨年3月末時点の財務書類(18年度決算分)の作成状況を見ると、都道府県と指定都市では全団体が「作成済」と回答しています。また、市区町村では1,799団体中1,047団体(58.2%)が「作成済」で、これに「作成中」と回答した232団体(12.9%)を加えると全体の7割以上が「着手済」となっています。現状では作成済団体の9割以上が「総務省方式」ですが、19年度決算分以降については作成済団体のうち10.5%が「基準モデル」で、76.0%が「総務省方式改訂モデル」で、それぞれ財務書類の作成を予定しています。さらに、「固定資産の評価」については、すでに400近い団体(381団体、31.2%)が「作業中」としています。ただ、全体的に小規模な団体ほど取り組みが進んでおらず、520団体が「未作成」と回答しています。理由としては、マンパワーの問題などが想定されますが、そうした取り組みが進んでいない団体をどのように支援していくかが今後の課題ですね。
──その後1年間で、どこまで進展したのか気になりますね。
高田
 具体的な数字は調査結果を見ないと分かりませんが、『新地方公会計制度研究報告書』を公表し、二つのモデルと今後の方向性を示してから2年以上経過していることから、この1年間で一定の進捗はあったものと予想しています(編集部注:21年3月末時点の財務書類の作成状況の調査結果は、今年5月半ばに公表予定)。なお、取り組みが進んでいない団体はもちろん、旧来の総務省方式で作成している団体でも、21年度を目標としていずれかのモデルを導入し、20年度決算から財務書類を作成・公表すべく準備を進めていただきたいと思います。
──現状では、総務省方式改訂モデルへの移行を予定するところが多いですね。
高田
 これまで総務省方式で貸借対照表や行政コスト計算書を作成・公表してきた団体では、総務省方式改訂モデルへ移行した方がスムーズだということはあるのでしょうね。ただ、総務省方式改訂モデルでは、スタート時に決算統計数値を活用して取得原価等に基づく簡易な資産評価を行うことが認められていますが、段階的に公正価値による評価への移行を求めており、基本的に目指すものは基準モデルにおける資産評価と同様だということをご理解いただきたいと思います。

──資産評価ということでは、地方公会計の整備促進に関するワーキンググループが昨年末に実務手引をまとめました。
高田
 公会計の整備を進める上では、どうしても隘路となる部分があります。そこで中小規模の団体でも、基準モデル・総務省方式改訂モデルによる財務書類の整備が円滑に進むよう「地方公会計の整備促進に関するワーキンググループ(WG)」を設置しました。先進団体の実務担当者と公認会計士をメンバーとして、財務書類作成上の課題解決の検討などを行っています。その成果の一つとして、昨年12月に『新地方公会計モデルにおける資産評価実務手引』を公表しました。そのほかにも、地方公社や第三セクターなどを含めた連結財務書類作成の手順などの検討を行い、現在、『新地方公会計モデルにおける連結財務書類作成実務手引』をまとめているところです(編集部注:21年4月公表済)。
──手引の公表が待たれますね。
高田
 さらに、公会計は財務書類を作成・公開すれば終わりというものではありません。財務書類から得られる情報を活用し、住民に対してより分かりやすい情報公開を行うことが考えられますが、そのためにはどんな情報を、どのように開示すれば有効なのかを考えなければなりません。また、財務情報は行政経営にとっても非常に役立ちます。財務情報を政策評価や予算編成、決算分析、あるいは議会における予算・決算審議などで、どのように活用していくかという視点も欠かせません。WGでは、そうした『財務書類の活用と公表事例』についても議論を進めています。これら成果物は、ホームページで随時公表していく計画で、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

行政経営の羅針盤としての活用を

──現在、基準モデル・総務省方式改訂モデル以外にも複数のモデルが存在し、団体間の比較を容易にするためにも会計基準の標準化が必要との意見があります。これについてはいかがお考えですか。

高田 確かに、中長期的には会計基準の標準化という議論はあると思いますが、それに至る前に、まずはすべての団体が公会計を整備して財務書類を作成し、実践を積み重ねていくことが重要だと思います。総務省としては、個々の状況に合わせ、地方公共団体が取り組みやすい方法で財務書類を作成できるよう二つのモデルを示していますが、それでも発生主義・複式簿記、連結といった考え方は地方公共団体にとって馴染みが薄く、特に中小規模団体では担当者が「この内容で本当に正しいのか」と不安を感じながら財務書類を作成しているのが現実ではないでしょうか。その点では、地域で活躍する税理士・公認会計士の皆さんに、専門家の立場からぜひアドバイスなどいただければと期待しています。試行錯誤を繰り返しながらも、実務経験を蓄積していくことで地方公共団体へ発生主義・複式簿記、連結といった考え方が着実に浸透し、またそのなかから新たな課題や改善点なども見えてくるはずです。回り道に見えるかもしれませんが、その上で地方公共団体も参加して議論を深め、よりよいモデルへと発展させていくことが、結果的に公会計を根付かせる最も有効なアプローチだと考えています。
──のんびりしている暇はありませんね。
高田
 そうですね。平成21年度は、財政健全化法、資産・債務改革、そして公会計改革の目標年次であり、地方の財政運営上において大きな節目の年度になるといえるでしょう。財政担当者にとっても正念場ですが、忘れてならないのは財政書類の作成は“目的”ではなく、“手段”だということです。財務書類から得られる情報を、行政経営の“羅針盤”として意思決定や業績評価などへいかに活用していくのか。それを常に意識しながら、公会計の整備を推進していただきたいと思います。


(*所属・役職等は取材当時のものです。)