電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

4月27日、「地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会」は、最終報告書として『内部統制による地方公共団体の組織マネジメント改革──信頼される地方公共団体を目指して』を公表した。
「内部統制」という言葉は知っていても、実態はよくわからないという人も多いはず。そこで、内部統制とは何なのか、整理してみる。

 粉飾決算や横領、建築物の耐震偽造、食品等の偽装表示など、企業の不祥事がたびたび新聞報道を賑わしている。こうした不祥事が起こるたびに、再発防止策として繰り返し語られるのが「内部統制」だ。だが、言葉はすっかり耳に馴染んだものの、その具体的内容となると、多くの人は「何だか難しそう(面倒そう)」「こんなことやりたくない」などの印象を抱くのではないだろうか。
 地方公共団体の場合、上場企業などのように内部統制への取り組みが義務化されているわけではないが、いずれ避けられないテーマであることは否めない。しかも内部統制は組織内のすべての人に関わる話なのである。
 そこで、まず強調しておきたいのは「内部統制とは新しい制度や概念ではない」ということだ。

 地方公共団体には、これまでにも地方自治法や地方公務員法をはじめとする法令、各種ガイドラインといった「ルール」があり、また、監査委員監査・外部監査制度などによる「チェック体制」も整備されている。だからといって、「もう十分仕組みは整備されているじゃないか」と考えるのは早計だ。
 重要なのは、「業務プロセスを、整備したルール通り正しく運用していると自信を持っていえるかどうか」なのである。

なぜ、いま内部統制なのか

 そもそも日本で「内部統制」という言葉が使われるようなったのは、平成12年9月、大阪地裁が取締役と監査役11名に対し829億円の賠償責任を認めた、大和銀行の巨額損失事件をめぐる株主代表訴訟の判決がきっかけだった。
 裁判の発端となった事件は、同行のニューヨーク支店に勤務していたトレーダーが、米国財務省証券の不正売買によって11億ドル(約1,180億円)の損失を出し米連邦捜査局に逮捕され、銀行自体も巨額の罰金刑を受けて米国から撤退したというものだ。これほど巨額な損失が発覚しなかった要因には、「トレーダー」と「証券の保有高・取引をチェックする人間」が同じという管理体制の不備があり、大阪地裁はこの判決で「健全な会社経営を行うには、リスク管理体制(いわゆる内部統制システム)を整備することを要する」と明言したのである。
 これを機に日本でも内部統制に関する議論が活発化し、平成14年の商法改正、平成18年の会社法の施行により、「法令への適合や業務の適正を確保する体制(内部統制システム)の構築」が求められるようになった。
 また、平成16年には西武鉄道の「有価証券報告書」の虚偽記載が発覚し、同社は上場廃止、グループのオーナー会長が逮捕・起訴されるという事件が起きた。その後も同様の事件が続いたことから、平成18年6月に「金融商品取引法」(いわゆるJ─SOX法)が成立し、すべての上場企業は、経営者による評価を内部統制報告書として提出するとともに、公認会計士・監査法人による監査が義務づけられたのである。
 一方、地方公共団体に目を向けると、やはり資金の不適切な取り扱い、工事発注をめぐる不正、休暇の不正取得、飲酒運転による交通事故といった不祥事が、近年、相次いで表面化しており、地方行政に対する地域住民の信頼を大きく揺るがす結果となっている。
 この状況を受けて、総務省は「地方行政及び地方公務員に対する信頼の回復について」(平成18年11月7日付事務次官通知)、および「地方公務員の汚職防止について」(同年12月26日通知)を相次いで公表し、〈従来の綱紀粛正の取り組みが適切であったか、汚職事件を引き起こす土壌がなかったか厳しく点検し、チェック体制の見直しや管理監督者の研修強化など、「不祥事防止策」を組織全体において講じること〉を要請している。
 こうした一連の「不祥事防止策」として機能するのも内部統制なのだ。

具体的に何をするのか

 では、内部統制で何を行うのだろうか。
 金融庁企業会計審議会の『財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準』と『財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準』を見ると、内部統制の定義を図表1のように示している。とはいえ、これを読んで内部統制を理解できる人はほとんどいないだろう。

 そこで内部統制をより分かりやすく説明すると、「組織内において業務を適切に進めるためのルール・手続きを設け」て、「組織内のすべての人が、そのルールに基づいて業務を遂行する」プロセスということになる。小誌をいま手にしている皆さんの周りでも、先述した不祥事とまでいかなくても、実際に決められたルール・手続きに基づいてきちんと処理すれば防げた人為的な「単純ミスによる事故」が起きていないだろうか? 内部統制は、そうした問題が発覚してから事後的に対処するものではなく、事前に予防・発見できるような仕組みを作り、首長以下、一般の職員まで組織全体で取り組んでいくものなのである。
 この内部統制の目的は、(1)業務の有効性・効率性、(2)財務報告の信頼性、(3)法令等の遵守、(4)資産の保全──の4つで、冒頭でも述べた通り、いずれも従来から取り組んできたものだ。
 例えば、1つ目の「業務の有効性・効率性」は、地方自治法第2条第14項が定める「地方公共団体は、その事務を処理するにあたっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」にあたる。また、財務報告の信頼性としては、「地方公会計制度」で求められる財務四表、あるいは「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」に基づく四指標などが、これに該当するだろう。
 3つ目の法令等の遵守は、「法令等遵守義務規定(地方公務員法第32条)」や「信用失墜行為の禁止(同法第33条)」があてはまる。さらに資産の保全については、債務圧縮や財源確保を図るため取り組みが進む「資産・債務管理改革」がそうだといえるだろう。
 内部統制とは、こうした目的を達成するために、(1)統制環境、(2)リスクの評価と対応、(3)統制活動、(4)情報と伝達、(5)モニタリング(監視活動)、(6)ITへの対応──の6つの基本的要素を機能させていくものだ。概要は図表2の通り(詳しくは研究会報告書を参照)。

 では、具体的に地方公共団体の業務のなかで内部統制をどう機能させるのか、身近な例として「支出業務」で見てみよう。
「負担行為から支出命令」に加え、出納帳等による「支出・支払」までの予算執行の手続きで考えられるリスクには、以下のようなものがある。

●発注していない・納品されていない商品の代金を支払う

●支払先を間違えて支払う

●請求額と異なる金額(例えば、桁誤りなど)、あるいは二重に支払う

 また、これらを防ぐ仕組みとしては、

●物品等の現物確認や実地調査

●印鑑、代理関係の調査

●支払い済みの請求書には済印を押す

●命令系統と出納系統との分立

といったことの対応策が考えられる。

 

 このように、内部統制は特別なものではなく、どこの市町村でもすでに日常業務のなかに仕組みとして存在しているものなのだ。重要なのは、これらを決められたルール通り実行し、それをチェックすること。だからこそ、業務の内容やそのプロセスを“見える化”することがいま議論されているのである。

活用で得られる効果

 さて、内部統制というと、不正・誤謬、事件・事故などの発生防止策としての側面ばかりが注目される。確かに、そうした点は否めないが、効果はそればかりではない。内部統制とは、見方を変えれば「行財政改革のさらなる推進のための仕組み」であり、地方行政に対する住民の信頼回復へ大きく寄与するものなのだ。
 業務におけるリスクとその防止策を“見える化”することで得られる効果(図表3)としては、まず業務プロセスに内在している不合理なルールや無駄を排除するなど、「業務の有効性」「業務の効率性」の向上が挙げられる。その結果、地方自治運営の基本原則「最小の経費で最大の効果」に資することとなる。

 また、職業専門家(税理士・公認会計士など)を含む監査委員監査による財務監査・行政監査などのモニタリング(独立的評価)で、「組織の透明性・効率性」を向上させる改善の機会とすることも期待できるだろう。さらに、これまで何気なく行ってきた業務についても、マニュアルやチェックリストなどに文書化することで人為的な「単純ミスによる事故」が減少し、職員の定期的な異動などを気にせず「業務品質の維持」も可能となる。
 このようにさまざまな効果が期待できる内部統制だが、本格的に整備・運用するにはITの計画的な活用が欠かせない。例えば、先述した支出業務の場合、「電子決裁システム」の活用が有効といえるし、パッケージ方式で提供される財務会計システムを導入して標準的な業務プロセスに合わせてしまうのも一つの方法だ。
 もちろん内部統制で、地方公共団体に関するすべてのリスクが解決するわけではない。内部統制には、(1)判断の誤りや不注意、複数の担当者による共謀で有効に機能しなくなる場合がある、(2)当初想定していなかった組織内外の環境変化や非定型的な取引などには対応しない場合がある、(3)整備・運用に際し費用と便益との比較衡量が求められる、(4)トップ層が不当な目的のために内部統制を無視(無効に)することがある──などの限界がある。とはいえ、まずは「いまできていること・できていないこと」の現状分析をして、常に改善しながら取り組んでいくことが大切なのだ。
 これまでの行財政改革は、一律に経費削減を図るなど、どちらかというと“無理なダイエット”を強いている感があった。だが、このやり方ではいずれ限界が来る。地方分権時代を迎えたいま、市町村が自らの責任と判断で地域住民のニーズへ対応していくためには、職員の意識や行政経営のあり方を抜本的に変えていかなければならない。
 その意味で、内部統制は従来の業務や組織のあり方を見直し、改革していく千載一遇のチャンスといえる。ぜひ前向きに取り組んでいきたいものである。