電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

──NHK大河ドラマ「天地人」の舞台としても注目される長岡市では、市民と地域と行政の情報化を一体的に推進する「e─ネットシティながおか」という事業に取り組んでおられます。これまでの経緯を教えてください。

竹田

竹田 長岡市は、平成17年4月と18年1月の2度の市町村合併を経て10市町村が一つになり、平成19年4月に特例市となりました。長岡市が豊かで活力ある都市としてさらに発展していくには、地域の文化や市民意識の融和を図るとともに、市民と行政の協働によるまちづくりが必要で、そのために「市民・地域・行政」が一体となった情報化を推進しているものです。長岡市が地域情報化へ積極的に取り組んだのは、平成13年に策定した「情報水道構想」に始まります。これは各家庭で高速インターネットを水道水のように「いつでも、どこでも、安く」利用できるようにするために市が先導的な役割を果たそうというもので、国が目指す「ユビキタス社会の実現」にも通じるところがあると思います。翌年度に「e─ネットシティながおか」という事業名で取り組みを開始しましたが、この「e」には、「エレクトロニクス」のほか「越後」、米百俵の精神を受け継ぐ「エデュケーション(教育)」など、いろいろな意味が込められています。当初は公共施設を光ファイバで結び、市民への動画配信や遠隔講座などブロードバンド・コンテンツを中心に導入していましたが、合併を機に情報化施策全般を見直しました。新たな情報化計画では、「便利で豊かな市民生活の実現」「効率的な行政運営の推進」「安全で快適な情報環境の整備」「市民と協働による地域づくり」の四つの基本方針を掲げています。また、これらの施策を全庁的に推進するために、「電子申請」「公共施設予約」「GIS」「電子決裁」など必要に応じて庁内プロジェクトチームを組織して検討を行い、その成果を受けて平成19年度から各種サービスを開始したところです。

公民館では、オンライン予約が8割

──「公共施設案内・予約サービス」も19年度にスタートされたわけですね。
竹田
 そうですね。平成13年当時の計画では、自前でシステムを構築しようと考えていましたが、費用や運用面での負担が大きいなど、担当部署の理解が得られず実現に至りませんでした。その後、合併により広域化した住民サービスへの対応やASP方式が登場したことで検討を再開し、20年3月から中央公民館と5つの体育館を対象に公共施設案内・予約サービスを開始しています。
──サービス開始にあたって、課題などはなかったのでしょうか。

佐藤

佐藤 正直いって、最初は市の総合計画として導入を進めるということで仕方なしに検討するといった感じでしたね(笑)。特に中央公民館の場合、利用者は高齢者が多く「オンラインサービスが利用されるんだろうか?」という疑問もありました。また、利用者からは「パソコンを持ってない」「ATMの操作もほとんどしたことがないのに」と心配する声があがったり、担当としては不安を抱えたままの船出だったんですよ。ところが驚くことに、導入から1年足らずで利用者の80%以上がオンライン予約で、そのうちパソコン利用が半分を占めています。
──公民館で、利用率80%というのはすばらしい! 何か秘訣があるんでしょうか。
佐藤
 サービス開始にあたって、「利用者の利便性」と「利用率」の双方を向上するとの観点から業務を見直し、主に3つの取り組みを行いました。1つ目が「予約ルール」の変更です。利用者の視点で、どうすればオンラインサービスが利用しやすいか、どうすれば予約申込が楽になるかを考えた結果、「先着方式から抽選方式への変更」「予約申込期間を2か月先まで延長」などの変更を行いました。また、2つ目が「オンラインサービスを利用した方が便利になる」と積極的な広報活動で周知したこと。そのため、最初のうちは職員がキオスク端末の側に立って操作案内をしたりもしました。いまでも「分からないところがあれば、何度でも聞いてください」と声をかけています。その効果からか、最近では施設の利用後に、キオスク端末で空き状況を確認しながら、次の予約を入れていくグループも増えています。そして3つ目が、オンラインサービスを利用するかどうかに関わらず、公民館を利用するすべての社会教育関係団体に対して、利用登録更新時に「ID・パスワードの登録」もお願いしたことです。そのために説明会を4回実施しました。
──なるほど。公民館では、オンラインサービスへの誘導を心がけたわけですね。体育館ではいかがですか?

井口

井口 体育館の場合は、公民館に比べて施設を利用する人数が多く、またオンラインサービスの開始と指定管理者制度の導入が時期的に重なったことから、作業の混乱を避けるためにも運用方法は変えませんでした。さらに利用者へは、「電話や窓口に加えて、パソコンや携帯電話からも予約ができる」という点をアピールしました。現時点でのオンライン利用状況は多いところでも全体件数の3割程度ですね。利用率はさほど伸びていませんが、施設案内や空き状況の確認という点ではオンラインサービスの効果が確実に表れています。例えば、これまで利用者にあまり知られていなかった“穴場”体育館が、いまやフットサルでほぼ毎晩利用される“人気”体育館へと大転身を遂げました(笑)。予約システムを導入した以外の影響もあるとは思いますが、これは予想外の成果でしたね。

施設の有効活用へ指定管理者とも連携

──「TKC行政ASP/公共施設案内・予約システム」を導入して、業務面での変化はありましたか。
井口
 体育館では通常3か月前から予約を受け付けますが、大会などで利用する場合、それより前に主催者からスポーツ振興課へ直接連絡をいただくことがあります。こうした場合、これまでは先方の希望日を聞いて、各施設の空き状況を電話で確認して、空きがなければ主催者に電話して再度日程を調整する…といったことを繰り返していました。それがいまでは、体育館を管理運営する指定管理者も同じシステムを利用しているため、スポーツ振興課のパソコンから各施設の空き状況をリアルタイムで確認できるようになりました。また、これまでは1年間の大会予定や定期的に開催される教室などを紙台帳にすべて書き出して各施設へ渡していましたが、これもシステムに入力するだけで済みます。とはいえ、業務の効率化という観点では、まだ十分改善の余地があると考えています。そのためには管理運用ルールの見直しも必要で、利用状況を見ながら抽選方式の導入なども検討していこうと考えています。また、権限調整の問題はありますが、指定管理者と連携して施設をさらに有効活用することなども検討したいですね。
佐藤 業務の効率化という点では、「統計機能」も便利だと思います。これまではエクセルなどに1件ずつ入力して集計していましたが、システムだとボタン一つで施設ごとの稼働率や曜日・時間帯別の状況がつかめます。こうした利用実態を詳しく分析することで、サービスの質的改善や新サービスの創出へつないでいきたいですね。

個性を活かした柔軟なまちづくり

──施設特性や利用者ニーズに合わせて、ルールや利用促進策を柔軟に変化させた長岡市の取り組みは、ほかの市町村にとっても参考になると思います。
佐藤
 システムの導入準備を進めるなかで感じたのは、これまでのやり方を基準に考えちゃいけないということです。技術革新やライフスタイルの変化などにより、時代とともに市民サービスも進化していきます。その時に現状に固執するのではなく、これからの運用ルールや業務フローはどうあるべきかを考えることが重要でしょう。変更当初は多少の戸惑いもありましたが、長い目で見れば、確実に市民の利便性が向上し、業務の効率化にもつながると実感しています。
井口 そうですね。基本的には、窓口でも、インターネットでも、市民が最も便利な方法を選べることが大切です。ただ、ITで便利になるのはいいことですが、それが極端に進むと利用者と顔を会わせない、話さないということになり、モラル低下も懸念されます。サービスの情報化が進んでも、我々としては「市民の顔を見て話す」ことの大切さを忘れてはならないでしょうね。
──今後のご計画を教えてください。
竹田
 今年度末までに「電子住宅地図」「コンビニ収納」を導入するほか、今後、「電子申告・納税サービス」などへの対応を予定しています。また“いつでも、どこでも、だれでも”という情報インフラの観点では、ケーブルテレビやコミュニティFMのエリア拡大のほか、携帯電話の不感地区解消にも積極的に取り組んでいます。実際、平成16年に発生した中越大震災の際にも、携帯電話が被災者支援や身近な情報提供、迅速な復旧活動に大きく寄与しました。大災害を経験した長岡市では、復興と併せて「日本一災害に強い都市(まち)づくり」を目指すなかで、防災についてもICTの積極的な利・活用を図りたいと考えています。さらに、平成23年には全国初の試みである「市民協働型シティホール」が中心市街地に完成し、本庁舎も移転することが決定しています。そこでは市民により便利な市役所として「ワンストップサービス」を実現します。これは「窓口でお待たせしない」だけではなく、「窓口に出向かない」で手続が完了する電子申請の拡大も同時に考えていくということです。いま長岡市は、合併による新市のまちづくりと大災害からの復興に全力で取り組んでいます。合併も震災も乗り越える、新しいまちづくりの合言葉は「前より前へ!」。この合言葉の下、ICTを活用して、市民が安心していきいきと暮らし、各地域の個性を活かした市民協働によるまちづくりの取り組みを、全国に発信したいと考えています。

図表

タイトル

『地方公共団体における行政情報化の推進状況調査』によれば、平成20年4月1日現在、いずれかの申請・届出等手続をオンライン化している市区町村は1,422団体(全体78.5%)に達した。このうち導入率が高いのは、「図書館蔵書検索」1,112団体(61.4%)、「公共施設予約」618団体(34.1%)など。
 また、オンライン利用率を見ると、「文化・スポーツ施設等の利用予約等」が36.0%とトップで、前年(30.1%)と比べても着実に利用率を伸ばしている。
 さらに今回の調査では、利用促進へ講じた措置についても質問している。利便性向上の点で最も多かったのは、「ホームページでのメニュー配置やナビゲーションの見直し」で410団体。また、提供手段の改善では「公衆端末や公共施設へのパソコン設置」が最も多く340団体。さらにメリット拡大ということでは、524団体が「24時間365日のサービス提供」と回答した。
 PRでは663団体が「広報媒体」の活用を挙げているが、長岡市の例のように利用者へ自動的にIDパスワードを登録してもらうよう働きかけるなど、今後はもうひと工夫したアピールが必要ではないだろうか。