電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

新潟県の電子申請改革

平成19年3月、総務省より『新電子自治体推進指針』が発表され、いま全国の地方公共団体において〈行政サービスの高度化〉〈行政の簡素化・効率化〉〈地域の課題解決〉をテーマとして、さまざまな取り組みが進められている。そうしたなか、新潟県が住民視点と費用対効果の視点から「電子申請・届出サービス」とそれを支える情報システムを大幅に見直した。そこで、見直しに至った考え方や今後の方向性について、新潟県CIO補佐官・松下邦彦氏に聞く。

◆行政情報化について取り組み状況を教えてください。
松下 
現在、『新潟県行政情報化プラン2006~2008』(2006年5月策定)に沿って、最高情報統括責任者(CIO)である泉田裕彦知事の指揮統括の下、全庁的な推進体制による情報化へ取り組んでいます。基本方針としては、ITを活用し行政経営の「高度化」と「効率化」を実現することで、「政策官庁への変革」および「小さな政府の実現」を目指すことを掲げています。ここでいう「行政経営の高度化」とは、住民満足度の高い施策や行政サービスの提供を目指すものです。例えば、政策形成過程において県民や有識者等の知見の共有化を図ること、あるいは意見交換の場の設定、ホームページなどを通じた情報発信などです。また、「行政経営の効率化」とは、業務プロセスの抜本的な改革と、投資効果が最大となるシステムの全体最適化、またその調達プロセスの改革などです。いまやいずれの地方公共団体も事情は同じだと思いますが、最大の経営課題は経費の削減ですね。これについては現在、新潟県では汎用機からオープンシステムへの移行などによる費用削減へ取り組んでいます。

行政経営の高度化・効率化へ電子申請・届出サービスを見直し

◆地方公共団体の情報システムは、業務ごとにシステムが構築され、長い時間の中でカスタマイズが繰り返された結果、極めて複雑化し硬直しています。それらのシステム資産をどう継承し、見直しながら、いかに行政経営の高度化と効率化を図っていくか。これは都道府県に限らず市町村にとっても、今後の大きな課題ですね。
松下 
そもそも、何を目的として情報システムを導入するかといえば、さまざまな経営上の課題を解決するためです。例えば、民間企業であれば、情報システムを有効活用することで「経営の効率化」を図り、より便利なサービスを提供するなど「経営の高度化」を行うことによって、「売上」という最終成果がもたらされますよね。行政の場合は、この最終成果が「住民満足度」になります。この点、これまでの情報化では、多くは業務の一部をシステム処理へ置き換えたものであり、「行政経営の効率化」という観点では道半ばです。「行政経営の高度化」に至っては、まだこれからというのが現状です。今後、「住民満足度」という最終成果を得るためには、制度・組織・業務プロセスを徹底して改善するとともに、全体最適ということを念頭に置いた情報システムの見直し・再編も必要不可欠でしょうね。


◆そうした「行政経営の高度化」の一環として、このほど電子申請・届出サービスの内容と、それを支える情報システムをリニューアルされ、平成19年12月3日よりサービスを開始されました。
松下 
はい。今回の見直しの狙いとしては、「費用対効果の最適化」と「利用実態に合わせたサービスへの進化」の二つがあります。つまり、行政サービスの質は下げずに、サービスにかかるコストの削減を実現しようというものです。
◆なるほど。
松下 
まず、1点目の「費用対効果の最適化」についてですが、従来の電子申請・届出システムは、開発・導入に多くの費用がかかりましたし、何より運用費が大きいことが問題でした。24時間稼動やセキュリティなどの要件を一つの県だけで実現しようとすると、コストが大きくなってしまうのです。そこで、全庁的にシステム再編を検討するなかで、これを見直すこととしました。重要なのは、情報システムそのものではなく、それを使ってどんなベネフィットをもたらすかですからね。そこで新たにASP方式の「かんたん申請・申込システム」と「電子申請・届出システム」を採用したわけです。導入にあたっては、システムのカスタマイズを最小限に止めたことで、導入にかかるコストを抑制しました。また、ASP方式により、24時間稼動やセキュリティを確保し、サービスの質を下げずに運用経費を劇的に削減することができました。
◆データが庁舎以外のところにあることへの不安はなかったのでしょうか。
松下 
特にありませんでしたね。情報セキュリティの確保はもちろん重要であり、システム選定にあたっては「LGWAN―ASP」を条件としました。ASPというと情報セキュリティ面で不安という声もあるようですが、電子申請・届出サービスでは、住民からの申請データが、たまたま民間のインターネットデータセンター(IDC)を経由して行政へ届くだけで、IDCとはいわば“郵便局”のようなものです。それが心配だといい出したら、電話も電子メールも使えませんよね(笑)。

利用の実態に合わせた行政サービスへシフトする

◆「利用実態に合わせたサービスへの進化」という点ではいかがでしょうか。
松下 
新潟県では、これまで133手続についてオンラインサービスを提供してきましたが、その利用傾向を分析したところ、利用される手続とそうではない手続がはっきりと分かれました。例えば、職員採用試験の申し込みや調理師・危険物取扱者の資格申請など、電子申請のみで完了する手続きは比較的利用されています。これに対して、オンライン申請のみでは手続きが完了せず、申請後に書類の郵送が必要といったものは、ほとんど利用が進んでいません。そこで、133のオンライン申請手続のうち、「当面利用が見込めない」であろう107手続については思い切って廃止し、「従来から利用されていた手続」と「今後、利用が見込まれる手続」の27手続きに対象を絞り込みました。
◆まさに行政サービスの「選択と集中」を図ったということですね。
松下 
そうですね。また、今回の見直しと併せて、電子申請・届出の仕組みをシンプルにし、利用者から見て“入口”にあたる部分をできるだけ簡単にするため、27手続のうち18手続については、電子申請を行う際のID/パスワードによる認証を不要としました。これは、利用が進まない理由の一つに、申請手続の煩雑さがあることから、まずは利用してもらうことを第一に考えたものです。申請者が本人であるかどうかの特定については、交付段階では厳格な本人確認が必要ですが、申請の段階で求められる確認レベルは、オンライン申請時に入力してもらうメールアドレスへの確認通知でも十分ではないかと思います。また、利用率向上を図るという点では、オンライン申請ができることを知らない住民もまだ多いことから、ホームページや広報誌などを活用して積極的にPRしていきたいと考えています。
◆情報システムの全体最適化、あるいは使い勝手のよいサービスの提供へ向けて、行政の情報化は、まさにいま大転換期を迎えているといえますね。
松下 
今後は単なる行政手続のオンライン化ではなく、一度の申請・手続で関係するすべての申請・手続が完了するような“ワンストップサービス”が現実のニーズとして求められていくと思います。それも県と国、県と市町村、あるいは県と民間という具合に、官官連携あるいは官民連携によるオンラインサービスの提供でしょうね。その代表例が、転居に伴う各種申請・手続です。例えば、いま引っ越しをすると、市町村の窓口へ出向いて転入手続を行い、印鑑登録、年金や健康保険などの変更をしなければなりません。運転免許証の住所変更や自動車の登録変更もありますし、金融機関やクレジットカード、水道、ガス、電気、電話などもあります。私も経験がありますが、こうしたさまざまな変更手続は実に面倒ですよね(笑)。これがパソコンや携帯電話から、1回の申請・手続ですべての登録変更が完了すれば、非常に便利です。こうしたことが、「行政経営の高度化」の一つのイメージでしょう。転居に限らず、これからはそうした民間事業者やNPOなどといった“枠組み”を超えたサービス連携の視点が重要になっていくと思います。

「オンライン利用促進を図るためにもまずは簡易な手続からサービスを

◆今後、電子申請・届出サービスを見直す、あるいはサービスを開始する市町村へ、アドバイスをお願いします。
松下 
平成19年3月、総務省が公表した『新電子自治体推進指針』においても、電子自治体の推進にあたっては〈住民視点と費用対効果の視点〉に立って取り組まなければならないと述べられています。電子自治体は、当然のことながら住民のためのものであり、住民が利便・効率・活力を実感できるものでなければなりません。これだけパソコンやインターネット、携帯電話が普及した世の中で、行政手続についても電子的なチャネルを用意するのは、ごく当たり前のことといえるでしょう。とはいえ、厳しい財政事情と照らし併せて、費用対効果を踏まえた推進も欠かせません。その点では、まずは簡素な電子申請の仕組みを作り、提供するサービスも複雑な認証を必要としない手続から始め、少しずつ浸透を図っていくことが肝要だと思います。加えて、住民へ使ってもらえるような工夫を続けていくことですね。将来的にはワンストップサービスの実現など、より一層の高度化も必要ですが、立ち止まったまま考えていても何も変わりません。まずは動くことが大切です。取り組んでいくなかで、どういったサービスが便利なのか、使ってもらえるサービスは何なのかといったアイデアもいろいろと出てくるでしょう。今後、新潟県としては、業務プロセスの改革と情報システムの再編を本格的に進めていく予定で、そのため今年度から来年度にかけて現行業務の調査分析を行います。その他にも、まだまだコスト削減やオンライン申請利用促進のアイデアはあると思っています。これまでのやり方にとらわれずに、行政経営の高度化と効率化を進め、「政策官庁への変革」と「小さな政府の実現」を目指していきたいですね。