電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

地方公共団体を取り巻く社会・経済環境が急速に変化するなか、住民・地域社会と市町村との関わり方も大きな転換期を迎えている。
“お役所仕事”や“申請主義”といわれたのは過去の話。いまや、行政経営も“チェンジ!”の時代なのである。そこで大切なのは、住民の「安心・満足・便利」へつながる改革を起こすことだ。

 いま、全国の地方公共団体で、さまざまな「経営改革」の取り組みが進められている。そもそも、地方行政の経営改革が本格的に意識されはじめたのは1990年代後半のこと。当時、急速な高齢化や巨額の財政赤字、バブル経済の後遺症など深刻な問題を抱え、社会や経済の構造改革が必至の情勢となっていたのだ。
 平成7(1995)年の『年次経済報告(経済白書)』を見ると、戦後50年の枠組みを見直して新たな枠組み構築の必要性を訴え、公共部門についても「簡素で効率的な政府」の実現が課題と述べている。そして翌年には、欧米諸国で広まっていたニュー・パブリック・マネジメント(NPM)の概念を盛り込んだ「橋本行革」が公表され、日本でも“小さな政府”が志向されるに至ったのである。

大切なのは顧客(住民)起点

 NPMとは、行政運営へ民間企業の経営手法を導入して、より効率的で質の高い行政サービスの提供を目指そうという考え方。具体的には、「顧客志向」「成果志向」「市場競争原理」「簡素な組織体制」などを導入するものだ。いま、NPMという言葉はほとんど使われなくなったが、その概念は地方行政へ着実に浸透し、経営改革の原動力となっている。
 では、その成果はどうだろう。あまり改革の成果が感じられないのであれば、取り組みを見直してみる必要がある。
 世界的に著名な経営学者・社会学者、P・F・ドラッカー博士は、民間企業に限らず経営に関する多くの著述を残しているが、その言葉は行政経営を考える上でも重要な示唆を与えてくれる。

 博士は、「企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である」と前置きした上で「組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことで、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は、目的ではなく手段である。したがって問題はその組織は何かではない。その組織は何をなすべきか。機能は何かである」と語る。
 そして、組織が何をなすべきかを考える時、発想や意思決定の「すべての出発点は顧客である」とも指摘している。いわゆる「顧客起点」の考え方だ。
 地方自治法に「住民の福祉の増進に努める」と掲げられている通り、住民満足度の最大化は地方公共団体のミッションである。だからこそ、住民ニーズに対する職員の意識も高いが、これまでともすれば行政側の視点で一方的に「住民のニーズはこうだ」と決めつけていなかっただろうか?
 いま、行政経営や財政運営に対する住民の関心が急速に高まり、協働によるまちづくりを模索する市町村も多い。そうした住民との関係を構築する上で大切なのは、組織や事務事業といった“内”向きの改革ではなく、住民起点で、よりよいサービスを供給するための“外”向きの“機能”改革だ。
 これは、従来型の行政経営からの脱却を意味し、新たな行政の経営スタイル確立へとつながるものといえよう。

住民の“不”を見つけ出せ

 さて今回、本特集で取り上げた4団体はいずれも内向きの改革ではなく、住民起点の外向きの改革へチャレンジした例である。共通するのは、住民満足を考える際に何が阻害要因となっているのかという逆転の発想から思考していることだ。つまり「不(不安、不満、不便など)」の解消である。これは、住民が感じている潜在的な「不」を読み取り、不安を安心に、不満を満足に、不便を便利に変えることで満足度を高めようというものだ。
 施設案内・予約サービスのオンライン化で、手続きの「不便」解消へ取り組んだのが、和歌山県海南市(約5.8万人)だ。インターネットだけでなく、主要施設へキオスク端末を設置したことで、体育施設では9割以上がオンライン予約となった。また、利用者情報の分析が可能となり、これを使って住民視点でのサービスの質的改善・創出へとつなげていくとしている。
 東京都墨田区(約24.6万人)は、東京23区として初めて電子申告の受付サービスを開始し、法人企業の申告にかかる「不便・不満」を解消した例だ。単に、給与支払報告書を電子データで受け付けるだけでなく、電子申告利用者に対して特別徴収の税額決定通知書を電子データで戻すサービスも開始し、納税者の業務プロセスの効率化にも役立ちたいとしている。
 宮城県大崎市(約13.8万人)では、休日でも納付できるようコンビニ収納サービスを導入し、納税の「不便」解消を果たした。背景には、住民の生活スタイルの変化などに加え、金融機関の支店の統廃合で近くに納税窓口がない地域が増えたという問題もあったという。コンビニ納付は、若者から高齢者まで幅広い世代に活用され、保育料や幼稚園の授業料などでの導入要望も後を絶たない。
 この3団体とは違った角度から、不の解消へ取り組んだのが、栃木県高根沢町(約3万人)だ。いま官民を問わず個人情報の流失事故が後を絶たず、社会全体が機微な情報の保管管理へ不安感を抱いている。そこで住民の「不安」解消へ、基幹系システムをハウジングして行政情報をより安全な環境で管理するようにしたのだ。中長期には、これで地域経営にかかる固定費を削減し、住民サービスに必要な財源確保も期待しているという。
 これらはほんの一例に過ぎないが、視点を外向き(住民起点)に変えてみると、これまで見過ごしてきた「不」がいろいろと見えてくるはずだ。
 10年後、20年後の未来の地域社会がどうなっているか誰も分からないが、間違いなくいえるのは「その未来へは現在からしか到達できない」ということだ。自治体の経営改革も、「Yes,we can.We can change!」なのである。