電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

クラウドコンピューティング技術を、電子自治体の基盤構築に活用しようという「自治体クラウド」の取り組みが加速している。狙いは、「業務改革としての業務・システムの最適化の徹底」だ。地方公共団体の現場へ大きな変化をもたらすであろう、この新たな動きについて、総務省自治行政局地域情報政策室の高地圭輔室長に聞く。

──厳しい財政状況や多様化する住民ニーズなどを背景に、電子自治体構築に向けた取り組みも転換期を迎えています。電子自治体の現状をどうご覧になっていますか。
高地
 「e-Japan戦略」以降、地方公共団体においても電子自治体構築に向けた取り組みが進められ、この間、業務の電子化といった基本的な部分は一定の進展を見ました。その一方で課題もまだ多く、特に(1)各種届出等手続のオンライン利用率の低迷、(2)縦割り整備などによるシステムの非効率性、(3)情報セキュリティの確保──などは、まだまだ改善の余地があると考えています。今後の方向性として、例えばオンライン利用促進では、図書予約や施設予約など住民に有効利用される手続きに集中して、さらに取り組みを進めることが考えられるでしょう。合わせて、利用促進の阻害要因となっている、行政手続きのプロセス面の見直しも進めていかなければなりません。また、システムの効率化という点では、いま「自治体クラウド」に期待しています。これにより、情報システムの共同利用を促進するとともに、システム調達の透明化・効率化を図りたいと考えています。電子自治体市場の問題点として、特定ベンダーへ過度に依存する市町村が多いことが挙げられます。いわゆる「ベンダーロックイン(囲い込み)」と呼ばれるものですが、これを解消するには、より多くのベンダーが市場参入できるような仕組みを構築することも必要でしょう。さらに、ASP/SaaSなどによって、いま、さまざまなサービスが提供されるようになったなか、買い手である市町村自身も自分たちに適したサービスを吟味・選択し活用できるようになるべきです。そうした取り組みを支援すべく、今年4月1日には『地方公共団体におけるASP・SaaS導入活用ガイドライン』を公表しました。3点目の情報セキュリティについては、「事故前提社会/事故想定社会」における対策の強化が必要です。特に、地方公共団体の場合、業務の委託先や再委託先において情報漏えい事故が発生していることから、運用面での取り組みを徹底しなければならないと考えています。

──なるほど。
高地
 一方で今春には新政権となって初のIT戦略本部会議が開催されるなど、新たなICT戦略の議論も始まっています。先頃公表された戦略骨子案では、国民本位の電子行政の実現として「オープンガバメント」や「国民ID制度の整備」に言及するなど、意欲的な内容がいろいろと盛り込まれました。5月には新戦略も決まる見通しで、その意味では、いま全体構想を再度組み立て直そうとしている最中であり、電子自治体についてもこの方針に沿って取り組みを進める必要があるでしょうね。

狙いは、コスト削減と業務改革

──現時点で、クラウドコンピューティングには明確な定義はありませんが、一般にASP/SaaS技術、仮想化技術などを用いて構築された情報システムを、利用者が対価を払いインターネット等を通じてサービスを利用する形態とされます。総務省が考える「自治体クラウド」とは、どういうものなのでしょうか。
高地
 総務省では、平成21年度から「自治体クラウド」開発実証事業へ取り組んでいます。これは、近年さまざまな形で活用が進んでいるASP/SaaS、クラウドコンピューティングといった技術を電子自治体の基盤構築にも活用していこうというものです。現在、6道府県66市町村が参加し、都道府県単位で住民情報関連業務や税、福祉といった基幹業務システムの共同利用を進めています。ここでいう「自治体クラウド」とは、閉域網として構築されているLGWAN上でシステムの共同利用を行う、いわゆる「プライベート・クラウド」(*)と捉えています。ただ、自治体のシステムはすべてプライベート・クラウドでなければならないとは思いません。例えば、電子申請や図書予約、施設予約などであれば「パブリック・クラウド」(*)の活用も十分考えられるでしょう。将来的には、住民サービスの充実や地域活性化といった分野でもクラウドコンピューティング技術が広く活用されることが期待されますが、今回の実証事業のようにセンシティブな情報を扱うものについては、やはりデータセンターの所在地をはじめ日本の法制度の下で適切な取り扱い・管理ができる環境に置くことが望ましく、現状ではプライベート・クラウドの形態が適していると考えます。
──「自治体クラウド」へ期待されるものは何でしょうか。
高地
 主に二つ挙げられます。まず、複数団体がシステムを共同利用することで“割勘効果”によるコスト削減が期待されること。国と地方の財政状況が一段と厳しさを増すなか、いま地方公共団体は規模を問わず情報システムにかかるコスト圧縮が喫緊の課題となっています。なかでも財政規模の小さい市町村にとっては深刻な問題で、そうした団体では人材面でもITの専門知識を有する職員の育成・確保が困難な状況となっています。この点、自治体クラウドはハードやソフトを自分で持つ必要がなく、運用管理にかかるコスト・業務負担の軽減なども期待できることから、中小規模団体にとって問題解決の“切り札”となるのではないでしょうか。また、二つ目が「業務プロセスの改革」です。今回の実証事業では主に技術的な部分の検証を目的としていますが、システムを共同利用するにあたっては技術的な仕様に加え、団体ごとに異なる業務プロセスを標準化する作業が肝要です。実証事業に参加する団体では概ね調達作業が完了し、これからいよいよ業務プロセスのすり合わせ作業が始まります。参加団体のうち、京都府と北海道は以前から共同化へ取り組んできた基盤がありますが、大分県や宮崎県、佐賀県はまさにゼロからのスタートであり、業務フローを取りまとめ標準化していくには相当な労力がかかるでしょうね。これらの団体では今後、パッケージシステムに沿って既存の業務フローや運用のルールの合理性などを一つずつ検証し、その上で本当に必要なものについて改修する、という具合に作業を進めることになります。地道な作業ですが、これは絶対に避けられないプロセスです。見方を変えれば、そうした団体が自治体クラウドの導入に成功することが、他団体にとって最も大きな動機付けになるといえ、我々としてもその成果を全国へ示していきたいと考えています。

自治体クラウドをめぐる動き

──クラウドコンピューティングというと、一般社会ではセキュリティ面での不安もあります。
高地
 確かに、インターネットを使ったパブリック・クラウドの場合、不特定多数の利用者を対象とすることやデータの所在を利用者が把握できないなど、安全性・信頼性の点では未だ発展途上にあるといえます。しかし、「自治体クラウド」はプライベート・クラウドであり、パブリック・クラウドとはまったく状況が異なります。今回の実証事業においてはデータのバックアップなどを検証します。ただ、地方公共団体では、これまでにも個人情報にかかる住基・税務の情報を庁舎外に置くのは心配だという議論がありましたが、庁内で管理する方が本当に安心なのか改めて考えてみる必要がありますね。いまや多くのデータセンターでは関係者以外の入館・入室を厳しく制限し、24時間体制で有人監視を行うなど各種対策が施されており、また災害発生時などの対策もとられています。データセンターならばどこでもいいというわけではありませんが、自治体クラウドなどの活用も想定して、データ保管のあり方や災害時の対策など全般的に見直すべき時期になったのではないかと感じています。

──共同化ということでは、すでに一部で「共同アウトソーシング」利用が始まり、システムの効率化では「地域情報プラットフォーム」も進んでいます。自治体クラウドとはどう関係するのでしょうか。
高地
 その意味では、自治体クラウドはまったく新しい施策ではなく、クラウドコンピューティングという新たな技術の普及によって誕生した、共同アウトソーシングや地域情報プラットフォームなどの延長線上にある施策といえるでしょう。特に、地域情報プラットフォームは、元々はマルチベンダのアプリケーション間の連携を行うための共通基盤の話と認識しています。自治体クラウドにおいてもその重要性は変わりませんが、中小規模団体ではコストや人材面なども加味して、最適な方法を選択するといった柔軟な考え方も求められるでしょう。
──「霞が関クラウド」との連携は、いかがですか。
高地
 そこは、まさに新たなICT戦略にかかってくる部分ですね。両者が連携することで国・地方を通じたシステムの効率化が期待されますが、それについては新戦略を受けて具体的な議論がスタートするのではないでしょうか。

22年度以降、全国展開へ

──今後の展開について教えてください。
高地
 実証事業については、平成23年度末までをめどに市町村がクラウドコンピューティングを利用するにあたって参考となる成果物──恐らく導入ガイドラインのようなものになると思いますが──をまとめます。また、これとは別に必要な情報については適宜発信し、システムの共同利用に向けた取り組みを促進するつもりです。例えば、実証事業で行われる業務プロセスの見直しなども、作業が一段落したら他の都道府県へ情報展開したいと考えており、ほかに都道府県独自の取り組み例なども広く紹介していきたいですね。自治体クラウドの場合、何となく便利になるというような抽象的なことではなく、コスト削減や業務改革といった明確なメリットがあります。言葉が先行していますが、理解が浸透すれば自然と導入団体も拡がるはずで、平成22年度以降はそのための普及が重要になります。市町村においては、現行システムの更改時期に合わせて自治体クラウドへ移行するほか、子ども手当の創設など、これから予定される住民情報システムの大幅な改修・更新を契機として取り組むことが望まれます。今後、我々としても可能な支援方策を政府部内で検討していければと思います。
──自治体クラウドが、新たな電子自治体の姿を見せてくれそうですね。
高地
 自治体におけるクラウドコンピューティング利用は、新技術の導入、セキュリティやシステム運用コスト、あるいは人材面など、いろいろな点でプラスの効果が期待できます。まさに一石二鳥以上のメリットが得られる手段であり、ぜひ積極的に導入を考えていただきたいですね。導入にあたって課題があれば、我々も一緒になって解決に努めます。いずれにせよ、新ICT戦略によって、電子自治体も次なるステージを目指していくことになります。実際に取り組みを進めるのは地方公共団体であり、対応すべきことはまだ山ほどあります。我々としても、そうした個々の団体の取り組みを支援するため最大限の努力を払うつもりであり、ぜひ地方の皆さんの声を聞かせていただければと思います。