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【特集】

タイトル

地方公会計制度改革は、ストック(資産)情報の把握など従来の公会計制度をより充実させ、行財政運営への活用を進めるものだ。すでに約9割の団体で、平成20年度版の財務書類作成が進むなか、今後求められる取り組みは何か──総務省自治財政局財務調査課飯島義雄課長に聞く。

──今年6月25日、『地方公共団体の平成20年度版財務書類の作成状況等』が公表されました。結果をご覧になって、いかがでしたでしょうか。

飯島 総務省では、貸借対照表などの財務書類について、平成21年度までの作成を全国の地方自治体にお願いしてきました。幸い、皆さん方の努力もあって、財務書類の作成に着手した自治体は9割を超えました。しかし、その一方で、未着手の自治体のほとんどが人口3万人未満の市町村であることがわかりました。このため、今後は小規模な自治体における新地方公会計をいかに進めていくかが課題だと考えています(図表1)。なお、総務省では、「基準モデル」「総務省方式改訂モデル」を用いた連結財務書類の作成を要請していますが、このやり方で「連結財務書類4表(連結貸借対照表、連結行政コスト計算書、連結純資産変動計算書、連結資金収支計算書)」まで着手している自治体は、約5割となっています。いま民間では、「国際会計基準(IFRS)」の適用が話題となっていますが、公会計の分野においても、「国際公会計基準(IPSAS)」などの国際的な動きがあります。このような世界の動向や、国や独立行政法人の公会計の動きを把握していくことも、新地方公会計における一つの課題でしょう。

現金主義の意義

──地方自治体の現金主義会計は、自治体のガバナンスを図るにはアバウトな制度だという人もいます。
飯島
 現金主義会計がアバウトだ、という言い方は、現行の地方財政制度への理解を欠いた誤解だと思います。日本の地方自治体は、地方財政法という法律によって、地方債は建設事業の財源にしかあてられないという「建設公債主義」が原則として守られています。これは、膨大な赤字国債を発行している国とは大きく異なる点です。また、地方債の償還期間は、減価償却の範囲内にすることもこの法律で定められています。また、インフラ資産には、多くの場合、国の補助も入っています。つまり、固定資産は必ず固定負債を上回っている状態になっています。この仕組みの下で、自治体のバランスシートを仮に想定すれば、大幅な資金不足(流動負債>流動資産)の状態がない限り、常に資産が負債を上回る(オーバーアセット)ことになります。現金主義会計では赤字とは資金不足のことをいいますが、オーバーアセットの状態であれば、収支さえ黒字にしておけばキャッシュが不足せず、財政は持続可能であるといえます。つまり、現行の建設公債主義である限り、現金主義会計でも十分に自治体経営の持続可能性が維持できるわけです。また、現金主義会計に基づく現在の仕組みには、納税者から集めた税金の使い途を議会が事前審議を通じて民主主義的に統制する、という優れたメリットもあります。さらに、毎年、全国の自治体が作成して総務省で取りまとめている「決算統計(地方財政状況調査)」は、非常に精緻な統計です。実質収支比率や公債費比率など、現金主義会計の枠内で、自治体の財務を分析する有効なツールを提供しており、「地方公共団体の財政の健全化に関する法律(財政健全化法)」の健全化判断比率の成立につながっています。このようなことから、自治体の現金主義会計制度は、これまで合理的に機能してきたと私は思います。事実、現金主義会計に基づく各種の指標は、地方債を引き受ける金融関係者に高い評価をいただいており、地方自治体の信用秩序の維持に大きく貢献してきました。ぜひ、このことを理解していただきたいと思います。

従来制度を補完する新地方公会計

──では、なぜ新地方公会計制度改革が必要なのでしょうか。
飯島
 それは、新地方公会計に地方自治体の現金主義会計を補完する機能を求めているからです。まず、現行の現金主義会計では、公共施設の「ストック情報(ある時点での資産)」がなく、土地や建物にかかるコストなどを正しく把握することができません。これが正しく把握できれば、例えば、公共施設の取得価格に対する減価償却累計額の割合を求めると、資産の老朽化比率が出ます。これらの指標をうまく活用すれば、自治体の資産マネジメントに大変有用な情報となります(図表2-1)。また、現金主義会計では、「支出」とは現金の流出のことにすぎません。一方、発生主義の新地方公会計では、一定期間の人件費や物件費、減価償却費なども含めたフルコストを支出として正確に算出することができます。例えば、自治体における図書館の利用者一人当たりのコストなどが正確に算定でき(図表2-2)、これらを事業評価などの有効なツールとして活用することができますよね。このように、発生主義の新地方公会計は、現金主義会計の限界を補完するために重要な意義を持っていると思います。

──「財政健全化法」と新地方公会計の関係は、どのように考えればいいのでしょうか。
飯島
 平成21年度から全面施行された財政健全化法は、「実質赤字比率」「連結実質赤字比率」「実質公債費比率」「将来負担比率」の4つの指標(健全化判断比率)について、監査委員や住民、議会のチェックを受けながら、地方自治体が説明責任を果たしていく仕組みです。この4つの指標は、監査委員の審査に付して議会に報告し、公表されます。特に、「将来負担比率」は、上水道などの公営企業や公社、第三セクターも含みますし、「販売用土地の含み損」や全職員が退職したものとみなして計算する「退職手当支給予定額」については、発生主義にならった考え方で将来負担額を求めます。これは、民間企業でいう「連結バランスシート」の負債に相当する概念で、自治体の法定の財務分析にストックの概念を導入したという点から、財政健全化法により新たに導入された画期的な指標です。財政健全化法の成立により、全国の自治体で、財政健全化が政治的な論点になりました。健全化法を機に、住民や議会が財政の健全化に大きな関心を持ち始めました。夕張市が財政再生団体となったことも、この問題に世の耳目を集めるきっかけになりました。自治体の努力の結果、4指標の早期健全化基準を上回る自治体は、19年度決算の43団体から20年度決算では22団体と大きく改善されています。財政健全化法は、現金主義を中心とした4指標により、自治体自ら住民や議会への説明責任を十分に果たしていくことを重視しています。これにより重視されるステークホールダー(住民や議会などの利害関係者)への説明責任について、新地方公会計は、複式・発生主義という視点から、現金主義を補完するための重要な役割を担うものであると考えます。実際に、新地方公会計の財務書類4表によって、より多様な財政情報の説明が可能となるでしょう。地域主権や住民自治を進めるためには、正確な財政情報の提供が不可欠です。その意味で、財政健全化法と新地方公会計の目指す方向は同じであり、財政健全化法の施行により、自治体財務の改革を進めるにあたっては、新地方公会計の整備を同時に進めることも、より重要になっていると考えます。

財政効率化へ取り組みを

──今後の展望について、お聞かせください。
飯島
 自治体職員からは、複式・発生主義の新地方公会計の必要性についての疑問を、ときどきお聞きします。しかしながら、お話ししたように、現行の現金主義の会計を補完する大きな役割を新地方公会計は持っています。特に、財政健全化法の説明責任や情報公開の強化の流れのなかで、新地方公会計への取り組みは避けて通れない課題であることを、どうか十分に理解していただきたいと思います。財務書類を未作成の団体においては、財務書類の必要性を十分理解の上、できるだけ早い段階での作成をお願いします。また、財務書類作成済みの団体では、財務書類の分析を通じた分かりやすい公表や、財務書類から得られる情報を資産・債務管理、費用管理、予算編成等に活用して、財政の効率化を図っていただきたいと思います。総務省としても、これまでと同様に、財務書類の整備に関しての情報提供や助言を行っていく考えでおりますので、引き続き新地方公会計の推進にご協力をお願いします。