電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

5年間で約35億円のスリム化を実現しながら、全国に先駆けて「観光立市」を宣言し、“住んでよし、訪れてよし”の未来を創造するまちづくりに挑戦する、栃木県佐野市。
「株式会社佐野市」を標榜し、トップ自ら改革の先頭に立って精力的に活動する岡部正英市長に、夢と希望と潤いのまちづくりについてうかがう。

──岡部市長は自ら観光大使として、観光立市へ積極的に取り組んでおられます。

岡部 佐野市は、昔から交通の要衝として栄えてきたところです。昨今では、東北自動車道や北関東自動車道の開通により首都圏や近県からのアクセスがよく、県内外から多くの方が訪れます。年間観光客数の推移を見ると、平成13年には314万人だった観光客数が、道の駅「どまんなかたぬま」や大型商業施設のオープンにより、平成21年には834万人にまで増加しました。加えて、佐野市には1,000年以上も脈々と受け継がれてきた天明鋳物などの伝統工芸、薫り高い歴史や文化、さらには清らかな水と美しい緑に恵まれた自然環境といった素晴らしい観光資源があります。そうした佐野の魅力を知っていただくため、全国に先駆けて「観光立市」を宣言し、私自身が市民の先頭に立ってPRに努めているところです。
──なぜ、「観光立市」なのでしょうか。
岡部
 観光立市推進の狙いをひと言で表せば、「住んでよし、訪れてよし」の佐野市を築き上げていくことです。佐野市は、平成17年2月に旧佐野市と田沼町、葛生町が合併して誕生した新しい市です。平成19年3月には、新市のまちづくりの基本方針として、〈育み支え合うひとびと、水と緑と万葉の地に広がる交流拠点都市〉を将来像とした『佐野市総合計画』を策定しました。これは平成29年度を目標年次として、前期・中期・後期の三つの基本計画から構成されています。そのなかで「観光立市」は、中期基本計画(平成22~25年度)において、まちづくりを推進するにあたって特に重要で先導的な役割を持つリーディングプロジェクトとして位置付けたものです。旧佐野市には山間部はほとんどありませんでしたが、合併によっていまでは市全体の65%が山林という自然環境に恵まれ、歴史や文化の幅も拡がりました。さらに各方面で活躍する佐野出身の方々や、これまで培ってきた多くの人々とのネットワークもあります。現在、国も観光を新たな成長戦略分野として「観光立国」を推進していますが、佐野市においても「天の時・地の利・人の和」に恵まれた“強み”を活かした「観光立市」によって、地域経済の活性化や雇用機会の増大、潤いのある豊かな生活環境の創造などを実現したいと考えています。

民間活用は、行政経営の有効な手段

──長引く景気低迷の影響により、いま市区町村では行財政改革が大きなテーマとなっています。佐野市の取り組みについて教えてください。
岡部
 最近ようやく合併の効果を実感できるようになりましたが、新市が順調に動き出すまでには苦労もありました。合併とは、事業活動に対する考え方や組織風土などまったく異なるものが一緒になることですからね。予算規模も合併当初は460億円あったんですよ。そのため、行政評価システムを導入して事務事業の効率化や組織・機構のスリム化などを図り、「効率的で健全な行財政運営」を推進してきました。こうした行政改革の結果、これまでに34億8,000万円の財政効果をあげました。ただ、行財政改革は単純に合理化や予算削減を行えばいいというものではなく、財源不足を基金からの繰り入れで補うといった従来の財政構造から脱却して、将来にわたり持続可能な財政構造へ転換を図っていくことが大切です。そのために取り組んでいるのが、民間委託などを積極的かつ計画的に導入し、民間事業者のノウハウを活かした事業の運営です。例えば、赤字が続き経営難に陥っていた市民病院は、平成20年10月に指定管理者制度による、公設民営の経営形態へ移行しました。これにより市の財政負担が減っただけでなく、先進的な医療機関として新たな取り組みが始まるなど、市民の健康保持増進と地域医療の質的向上という点でも大きな成果が生まれています。
──それは、市民にとっても喜ばしいことですね。
岡部
 重要なのは、行政の経営基盤の強化や運営の効率化をはかりながら、市民のためにいかに最適な仕組みを作るかということです。社会経済情勢の変化などを踏まえ、目的達成のための行政手段も変わるのは当然のことだと思いますね。
──その点では、このほどサーバのハウジングサービスを導入され、岡部市長自ら当社データセンターを視察されました。
岡部
 実際に視察してみて、専門のデータセンターとしての設備や環境に圧倒されましたね。実は、阪神淡路大震災の際に、私は栃木県の災害対策特別委員として現地へ入り、神戸市庁舎の6階部分が完全につぶれているのを目の当たりにしたんですよ。情報化社会は非常に便利な反面、万一、庁舎やサーバが被災すると行政機能がマヒし、市民の救済活動にも支障を来すことになりかねません。いまや市民にとって大切な財産である住民情報をいかに守るか、不測の事態において業務継続性をどう確保するか、は重要な経営課題です。特に、佐野市庁舎は築48年と耐震上もそろそろ建て替えが必要で、しかもマシン室が地下一階にあるんですよ。これは心配でしたね。この一帯は昔から自然災害の少ないところですが、最近では異常気象によるゲリラ豪雨という新たなリスクも発生しています。また自然災害に限らず、情報化社会のリスクマネジメントとしても情報の漏えいや紛失などにも備えなければなりません。その点では今回、TKCインターネット・サービスセンターへ住民情報を預けたことで、私もほっとしました。やはり、専門家にはそれだけのノウハウがありますし、行政経営の観点からも民間へ委託した方が効率的ですからね。大いに頑張っていただきたいと思います。
──ありがとうございます。いま、市区町村の情報化ではクラウドコンピューティングが注目されていますが、ハウジングサービスは本格的なクラウド活用に向けた第一歩といえるでしょうね。

「株式会社佐野市」たれ!

──行政経営という点では、組織としての意識改革も必要といわれます。
岡部
 私は、職員へ常々「これからは『株式会社佐野市』になるんだ」といっています。これは市役所も公共サービス機関として民間の経営感覚を持ち、市民生活の視点で頑張るということです。市役所は何をすべきか、何ができるのか、職員一人ひとりが常に考えること、それが「株式会社佐野市」なんです。そのためには、(1)総合計画に基づく組織編成と人事管理、(2)効率的・効果的な事務事業と民間委託の推進、(3)健全な財政運営の推進、(4)能力向上のための研修の充実と自己啓発の推進──が欠かせません。最近、幹部職員には「目配り、気配り、思いやり」の徹底を、また一般職員には「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」を密にして仕事へ取り組むようにいうのですが、人を動かすのはなかなか難しい…(笑)。
──まったく同感です(笑)。企業経営においては、よく「組織は戦略に従う」といわれます。まず何をやるのか戦略を決め、その上で、それを推進するための組織と人材を充てるというものですが、まさに佐野市はこれを実践されているわけですね。「観光立市」は、現在どのような展開をされているのでしょうか。
岡部
 今年3月には北関東自動車道が全線開通することで、佐野は太平洋と日本海を横断する高速交通の重要な交流拠点として、また一つ地の利が増えることになります。ただ、観光を一過性のブームで終わらせないためには、市全体を観光資源とすることも大切です。地域の人びとの暮らしや文化、人との交流、地域産業の体験などを通じて地域住民と共鳴するすべての行為、空間、雰囲気、施設、環境、都市機能など、あらゆるものを観光資源として、人々や企業を惹きつける新たな佐野の魅力を創出し、平成25年度までに年間観光客数1,000万人達成を目指します。
──なるほど。壮大な計画ですね。

岡部 一方で、観光客の方に「来てよかった」「また訪れたい」と思ってもらえるようにするには、受け皿としての住みよいまちづくりや、おもてなしの心の醸成も必要です。このことは、市民生活の利便性にもつながります。そこで、市民や事業者の皆さんと協働して人づくり、組織づくりを進めています。例えば、市中心市街地活性化では「まちなか活性化推進協議会」を立ち上げ、天明鋳物や雛人形などの伝統文化、佐野ラーメンやいもフライなどの食文化、あるいは公共交通機関や行政サービス機能といった生活利便性などを、一つのブランドとして融合させ、佐野らしさを誇れる“小洒落たまち”を創造しています。そのため商工会議所の一部に「まちなかサロン」を、また旧佐野駅舎跡地に佐野駅前交流プラザ「ぱるぽーと」を開設したほか、平成22年11月には「まちなか活性化ビル・佐野未来館」 をリニューアルオープンしました。ここは1階に「人間国宝 田村耕一陶芸館」、2階は市民ギャラリー、3階はチャレンジショップとレンタルボックス、4階は行政およびまちなか活性化団体の活動拠点として活用するなど、芸術・文化の情報発信拠点となっています。さらに今年1月には、市内の商店や事業所などの協力を得て、観光客へのおもてなしの場として、道の駅ならぬ「まちの駅」を28か所開設します。ほかに市内間の移動がしやすいように、道路の整備や市営バスなど公共交通機関の利便性向上へも取り組んでいます。こうした受け皿の整備に加えて、PR活動にも力を入れています。さまざまなメディアを通じた広報に加え、映画等のロケ地として作品を通した知名度アップ、各種会議・大会の誘致などにより効果的なPRを図ります。
──観光立市のほかに、計画されていることはありますか。
岡部
 いま新たに取り組んでいるのが「内陸型コンテナターミナル」、いわゆる内陸の港(インランドポート)の研究です。これは、佐野市の立地条件を最大限に活かし、輸出入品の積み降ろしや検疫・通関などの港湾業務を内陸で行うことができる「内陸型コンテナターミナル」設置の可能性を検討するもので、平成22年5月には外部有識者を交えた研究会も発足しました。この構想は市長になる前から考えていたもので、実現すれば国内初となります。佐野市が北関東の新中核的都市として飛躍発展するための一大プロジェクトとして、市民や地域とともに推進していきたいと考えています。

育み、支え合い、ともに発展する

──行財政改革というと暗い話題になりがちですが、岡部市長の話をうかがっていると前向きな気持ちになります。
岡部
 厳しい話ばかりでは、夢も希望もなくしてしまいますからね。私自身、佐野で生まれ育ったので、「夢と希望と潤いのあるふるさと佐野市」を築くことは信念であり、市長としての使命だと思っています。〈育み支え合うひとびと、水と緑と万葉の地に広がる交流拠点都市〉を目指して、これからも積極的に“トップセールス”を展開していきますよ(笑)。とはいえ、佐野市単独でできることには限界があります。例えば、栃木県には港も空港もありませんが、茨城県や福島県の空港を経由して世界中から観光客を集客することができますよね。その意味では、近隣自治体が連携して点から面への観光振興を進めることも大切です。地方公共団体を取り巻く環境は年々厳しさを増していますが、これからも効率的・効果的な行政経営を進め、市民や地域とともに創意工夫をこらし「住んでよし、訪れてよし」が実感できるまちづくりへ取り組んでいきます。