電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

600余りの「事務事業の評価」や「事業仕分け」の実施など、事業の“選択と集中”をはかりながら、将来を見据えた市民本位のまちづくりを進める和歌山県海南市。
「元気 ふれあい 安心のまち 海南」をスローガンとして、全庁を挙げて行財政改革と市民サービスの向上に邁往(まいおう)する海南市の取り組みについてうかがう。

 平成17年4月1日、1市1町(海南市、下津町)が合併し、新・海南市が発足して6年。この間にそれぞれの資源が融合され、歴史と個性を重層的に包含する都市機能を有するまちとなりました。
 いま、全国の地方自治体はさまざまな課題を抱えていますが、なかでも平成の大合併を経て誕生した新市にはいくつかの共通する課題があります。その最大のものは、従来のまちづくりを極力無理のないよう継続しながら、それぞれの地域の個性や強みを活かした新たなまちづくりをいかにして実践していくかということです。その前提となるのは「行財政改革の推進」であり、これに市の推進力たるマンパワー、すなわち市民の融和、あるいは職員の融和や資質向上などの諸要素が有機的に連動してはじめて、市民の皆さまが誇りと愛着を持つことができるまちの実現につながるものと考えています。

市民にとってどうあるべきか

 さて、海南市が合併後、社会情勢の大きな変化へ的確に対応し、新しいまちづくりを総合的かつ計画的に進めていくために、まず着手したのは指針となる『第一次海南市総合計画』の策定でした。合併時に策定した『新市まちづくり計画』を基本としつつ、市民の意向を反映できるよう、平成17年度から2年間かけて市民アンケートや各種団体・グループヒアリング等を実施した上で総合計画審議会の意見を反映した計画づくりを進め、平成19年3月に〈元気 ふれあい 安心のまち 海南〉を将来像とする『第一次海南市総合計画』が完成しました。

 総合計画では、その実現のために六つの施策目標と行政運営の方針、さらには、それらを細分化した基本的方策を体系的に定めています。
 ここで特筆すべきは、従来の総花的な計画ではなく現実性のあるものとしたいと考え、基本構想において市民が望むまちの状態を政策や施策の目標に位置付けたことです。そのため基本計画では、市民生活や地域社会が「将来どのような状態になっているのか」という成果を中心に表現し、これまでの計画にはなかった「目指すまちの姿」や「133項目からなる成果指標」、「重点事業」を明記しました。
 また、市政運営においては、市が抱える重点課題や市民の「暮らしやすさ」に対する意識へ焦点を絞り、予算や職員など経営資源を効果的・集中的に投資し、事業の重点化を図るよう心掛けています。

市が掲げた六つの重点施策

 総合計画の推進にあたっては、総合的な施策展開を図るとともに、市としての戦略的な目標を設定して個々の施策分野を超えた横断的かつ重点的な取り組みを進めることが必要です。このため、総合計画では新市まちづくり計画で掲げた三つの施策──「防災対策の推進」「生活道路の整備」「子育て支援の推進」に、「若者定住の推進」「高齢社会への対応」「健康づくりの推進」を加えた六つの施策を、今後5年間で行政資源を重点的に投資する「重点プラン」と位置付けました。また、それぞれの施策・事業の相乗効果を高めるため、関係部課長で構成する検討協議会を設置し、毎年度の予算等に反映していくものとしています。

 第一に「防災対策の推進」では、住民が安心して生活できるよう、東南海・南海地震などあらゆる災害に備えた総合的な防災対策を推進するとともに、国の直轄事業として約250億円をかけて浮上式の津波防波堤の設置などが進められています。また、子どもから高齢者まで全市民を対象として防災に関する啓発や情報提供を積極的に進め、さらに住民主体の自主防災組織の育成を促進するなど地域防災力の向上も図りたいと考えています。

 第二に「生活道路の整備」では、市内各地域や周辺市町村との連携・交流を促進するため、国道・県道の渋滞緩和に向けた整備へ取り組んでおり、特に身近な生活道路である市道の計画的な点検・見直しを進め、利便性や緊急度に応じた整備に力を入れています。
 第三に「子育て支援の推進」では、幼稚園と保育所の両方の機能を兼ね備える「認定子ども園」や、子育て中の親子が気軽に利用し育児相談もできる「子育て支援センター」を設置するなど、安心して子どもを生み、育てられる環境整備に努めています。
 第四の「若者定住の推進」については、本市では若者の転出による人口減少が大きな課題となっていることから、若年層への住宅取得支援である定住促進奨励金の交付を開始しました。また、企業や大型商業施設を誘致し、市民の利便性の向上に加え、地域経済の発展や雇用の創出による若者の定住促進にも積極的に取り組んでいます。
 第五に「高齢社会への対応」では、平成25年春開院に向け、市民病院の新築移転工事が3月から着工されます。昨今、全国的に医師不足が進むなか、移転を機に消化器センターを新設し、消化器系のがん治療にも力を注ぐ計画です。また、高齢者の生きがいづくりや健康づくり、介護予防の充実に努めるとともに、支援が必要な人が安心して暮らせるよう、地域と連携して見守り支える福祉の充実を図ります。
 最後に「健康づくりの推進」では、各種スポーツ施設の整備改修をはじめ、幅広い世代の人々がさまざまなスポーツに触れる機会を提供する総合型地域スポーツクラブの設置や、病気の早期発見に向けた各種健診の実施、生活習慣病の予防対策、各種保健事業の推進、地域の保健医療体制の充実などに努めています。

大切なのは職員・組織の活性化

 平成12年4月に「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」が施行され、国から地方への事務権限の移譲が進んだことで、市民に最も身近な基礎自治体として市町村の重要性はますます高まっています。一方で、いま多くの市町村が極めて厳しい財政状況にあり、行財政改革へ取り組み、地方分権時代に対応できる組織機構や事務事業の見直しと改善、効率的な行政体制の整備等を進めることが喫緊の課題となっています。
 そのためには、市税の収納率向上など歳入を確保するとともに一層の歳出削減が必要ですが、それ以上に重要なのは施策・事業に携わる職員の心構えです。特に、市民の要望を察知する感性や創意工夫を凝らした施策を立案・実践する力が不可欠であり、組織においては事務事業全体の見直しや受益者負担の適正化など公益上の必要性・効果、経費負担のあり方等を検証し、組織全体の能力を高めていこうとする姿勢が大切だと考えます。
 本市でも、これまで行政改革大綱や集中改革プランの策定、事務事業評価、指定管理者制度の導入、さらには職員から経費節減案を募るなど改革に取り組んできました。特に、職員数は合併によるスケールメリットによって約160名減となり、人件費に換算すると約20億円の削減効果を上げています。
 また、行政の効率化を図るという点では、私が旧海南市長に就任した平成14年度から継続して事務事業評価へ取り組んでおり、合併後も毎年60から70程度の事業を抽出して実施してきました。この取り組みを一段と進める必要があると判断し、平成22年度からは市が実施するすべての事務事業を対象に内容が類似するものを整理統合するなど、600余りの事業を評価したところです。
 さらに昨年10月には、外部評価の取り組みの一つとして「事業仕分け」を実施し、単に経費削減に努めるだけではなく市民感覚を肌で感じる機会を設けて、職員の説明能力の向上にも努めています。

情報システムも変わらねばならない

 このように、限られた経営資源で市民サービスの向上や地域の活性化を実現していくためには、抜本的な仕組みの見直しが必要であり、その点では行政情報システムもまた一層の進化が求められています。そうしたことから、最近注目されているのが「クラウドサービス」です。
 情報システムというのは、本来、業務をより確実かつ効率的になすための「高度な機器」であり、特に市民の生活に直接関わる基幹業務を支援する情報システムは、いかなる場合においても「誰もが取り扱え、安定的かつ効率的な運用ができること」が求められると考えています。
 今後30年以内に南海地震が60%、東南海地震が60~70%の確率で発生するといわれるなか、本市にとって、不測の事態に備え、基幹業務の継続性の確保へ万全の対策をとることは不可欠です。その対策の一つとして、「クラウドサービス」のように自前のサーバーを持たず、ネットワークを介して外部資産を有効活用するような手法も検討すべき時期になったといえるでしょう。
 本市では、比較的早い段階からクラウドサービスの一種であるASPを活用し、市民に向けて公共施設予約サービスを提供してきました。サービス開始当初は、高齢者を含め全市民に馴染むかどうか懸念もありましたが、現在、多くの方に利用されています。こうしたクラウドサービス活用のメリットは、機器の購入や運用保守の手間が省けるだけでなく、高度な技術を持つ専門家へ機器の運用を委託することで情報セキュリティの面でも安心できるという点であり、今後の動向に注目しているところです。

人口減少社会へどう立ち向かうか

 今後、持続可能な市政運営を進めるなかで、一番大きな課題が人口減少への対策です。
 国の人口推計によると、平成32年の日本の人口は1億2,200万人となり、平成17年と比較して約500万人減少するといわれます。また、本市の人口は平成32年には5万人を切ると予測されています。人口減少は、市民生活や行政運営のほか、さまざまな分野で負の影響をもたらすことから、本市では先に述べた各種施策を通じて人口減少の抑制に努めているところですが、なかなか歯止めがかからない状態となっています。

 今後も、これら施策の充実をはじめ、地域雇用の拡大に向けた企業誘致や定住人口増加につながる住環境の整備などへ市全体で取り組み、知恵を出し合いながら、この待ったなしの課題に対する抜本的な施策を早急に展開する必要があると考えています。

 市役所の存在意義は地域社会に貢献することにあり、市民の期待や要望をいち早く理解し、的確に対応しなければならないと考えています。また、市役所にとって最大の痛手は、資産を失うことよりも、市民の信頼を失うことにあります。
 真に“市民のための市役所”になるには、「やりたいこと」と「できること」とを区別し、感情を排し、正しい情報に基づいて施策を展開していかなければなりません。目先の利害ではなく、常に将来を見据えた“末広がり”の判断を行い、事業の重点化を図りながら、「よいまちを創ったよ」と次代に引き継ぐ試みに、これからも全力を挙げて取り組んでまいります。