電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

白鳳、天平時代にかけて文化交流の一大拠点であった下野市。
1300年の時を超え、いまや都市の便利さと田舎の魅力を併せ持つ “とかいなか”として注目され、多くの人々がこの地に移り住む。そうした地域特性を活かした「思いやりと交流で創る新生文化都市」の実現を目指して、選択と集中で、高い市民満足度を達成する下野市のまちづくりについてうかがう。

──東日本大震災の影響は?
広瀬
 東日本大震災により亡くなられた方々に対し心よりお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆さまには心よりお見舞い申し上げます。

 今回の震災では、下野市も震度5強の揺れに見舞われました。被害状況は、国分寺中学校体育館の屋根が落下し、生徒が負傷したほか、家屋等の一部損壊は1,572棟(納屋等含む)に上り、公共施設も多く被害を受けました。現在、これらの復旧にあたるとともに、被災避難者の受け入れや職員派遣など、さまざまな形で被災地の復興支援に注力しています。なかでも風評被害を受けた地域のダメージは深刻で、我々も何かお手伝いできればと考え、「道の駅しもつけ」で農作物や加工品などの安全性をPRするフェアを開催しています。今回の震災では、市の防災体制にも多くの試練を与えられました。かつて経験したことがない災害の大きさから「想定外」と表現されることも多いのですが、行政のトップとしてはこの言葉を言い訳にできません。起きてしまったことよりも、これを教訓として何をするかが問われているのだと感じています。

質と量の両面から改革に取り組む

──下野市は、平成18年1月に広域行政圏が異なる3町の対等合併により誕生しました。
広瀬
 異なる行政圏でやってきたものを一つにするのは大変ですが、上手に運営すればそれぞれの“いいとこ取り”ができます。現時点ではうまくいっていると思います。下野市は約75平方キロメートルと狭いのですが、3つのJRの駅があり、都心部まで1時間半程度で行けることから、近年は首都圏郊外の住宅地として人口が増加しています。また、自治医科大学附属病院を中心に最先端医療技術の集積と地域医療の充実が図られ、さらには農作物の南限・北限の境界域として多種多様な市産食材もあるなど「医・食・住」の生活環境に恵まれたまちでもあります。加えて、市内各所には国指定史跡の下野薬師寺跡および下野国分寺・国分尼寺跡など、古代からの史跡が多く点在し、特色ある地域文化の礎になるとともに市民の誇りとなっています。これらの地域特性を活かし、「思いやりと交流で創る新生文化都市」を将来像とする、市民と行政の協働による安全で活力ある生活圏の創造を目指しています。特に医療・福祉分野では「人に対する直接投資」を方針として、将来にわたって市民が安心して健やかに暮らせるよう、病気の予防と早期発見による健康づくりへ積極的に取り組んでいます。一例を挙げれば、中学3年生までの「子ども医療費の無料化」を早期に実現したほか、「子宮頸がんワクチンの無料接種」へは国に先駆けて取り組みました。

──行政経営では、民間の経営感覚を取り入れられていますね。
広瀬
 経営では「スクラップ・アンド・ビルド」といわれますが、いまの時代に適合した行政組織となるには、すべてを一度壊し、よりよいものへ再生させる必要があると思います。下野市も、合併直後は硬直化した財政状況をどう立て直すかが課題でした。そこで、まず市の借金である債務を繰り上げ償還しました。その結果、将来負担比率は県内14市内で最も低くなりましたが、まちの発展を考えればある程度の投資も必要です。しかし、厳しい財政状況下では、従来のように「あれもこれも」まんべんなく行うという姿勢を転換し、「あれかこれか」による選択と集中により、優先度の高い事業へ経営資源を集中的に投下することが欠かせません。そのため下野市では、事務事業の事前評価において、あらゆる分野の施策・事業を対象に「事業の性質」と「事業を取り巻く状況」の2つの視点から優先度を設定し、実施の可否を判断するとともに、進捗状況等の把握や予算査定の参考資料としても活用しています。また、基本計画策定時に、事後評価として市民満足度による検証を実施しています。
──PDCAサイクルをうまく取り入れられているんですね。
広瀬
 そうですね。現在、進行中の『第二次下野市行政改革大綱』(実施期間は平成22~26年度)では、財政効果を測定できる定量化可能な取り組みによる「量的側面の改善」にとどまらず、より効率的で柔軟な行政運営と公共サービスの充実など「質的側面の向上」にも取り組むことにしています。このように「量」と「質」の両面から改革へ取り組むことで、単なる事業の縮小・合理化に終始することなく、限られた経営資源のなかで「顧客志向」の行政経営を目指していきたいと考えています。

実感された安心・便利な電子行政

──『第二次下野市行政改革大綱』の重点事項に電子自治体を掲げるなど、情報化にも積極的に取り組んでおられます。
広瀬
 安全・安心な市民生活の実現や市民サービスの向上、あるいは行政事務の高度化・効率化において、いまやICTはなくてはならない存在です。平成20年3月には、地域社会と行政とが一体となってICTを総合的・効率的に活用することで地域の自立性を高め、豊かさを実感できる市民生活の向上を図る『下野市地域情報化計画』を策定しました。特に最優先課題だったのが、ブロードバンド未整備地域の解消です。民間のサービスだけでは、どうしても高速の通信回線を利用できない地域が生じることから、地域イントラネットの整備において主な公共施設(50か所)と屋外拡声器(63か所)を光ファイバーで接続し、民間のサービスエリア外については市の光ファイバーを民間へ貸し出すことで課題を解決しました。その結果、市内全域で高速通信サービスが利用できるようになっています。当初は否定的な意見もありましたが、高速通信回線は道路と同じ社会的インフラです。市民は利用しても・しなくてもいいが、利用できないという状況は困る。そのため行政主体で整備し、現在はこれを基盤としてICTの利活用を図っているところです。一例を挙げれば今年2月より、観光スポットから生活に役立つ情報まで市内のいろいろな場所を簡単に探し、その場所の概要を知ることができる公開電子地図「しもつけシティーガイド」や、市民間のふれあいや協働のきっかけづくり、コミュニティー活動の活性化を支援する市民活動支援サイト「Youがおネット」を、それぞれオープンしました。
──まさに顧客志向のサービスですね。
広瀬
 また震災を機に、市民に“安心で便利な電子行政”を実感してもらえたのが、「全国瞬時警報システム(Jアラート)」です。これは大規模な自然災害や弾道ミサイル攻撃などが発生した場合、緊急情報を住民へ伝えるもので、下野市では、屋外拡声器と小中学校や保育園、公共施設の構内放送でJアラートの情報を伝達しています。これが地震発生時に市民の避難誘導に大いに役立ったのはもちろん、その後の計画停電では東京電力より連絡を受けると同時にこの仕組みを利用して市民へ情報提供しました。また、顧客志向という点では、3月24日より「証明書コンビニ交付サービス」も開始しました。市民が役所を訪れる目的で最も多いのが、「住民票の写し」や「印鑑登録証明書」の交付です。この点、東京方面へ通勤する市民も多いことから、市役所の窓口以外にも全国どこでも手近なコンビニで、休日や夜間にサービスが利用できれば市民にとって便利ですよね。そこでコンビニ交付サービスの実施を決断しました。これにより窓口業務の軽減効果も期待できますね。

顔は市民に向いているか?

広瀬 市では分庁舎方式を採用しているため、職員が庁舎間の移動に要する時間・経費にどうしても無駄が生じてしまいます。そこで、これまではICTを有効活用することで、日常的な連絡や事務書類のやりとりなどの組織運営上の非効率さを補ってきました。しかし、平成27年度末の完成を目指して新庁舎の建設も予定されており、これからは次代を見据えた「ワンストップサービス」の基盤づくりとしての情報化投資も検討していかなければなりません。とはいえ行政がやるべき本来業務は企画立案・管理業務であり、民間委託が可能なものはどんどん任せるべきだと思います。行政と民間が互いに得意分野のなかで分業していけば、さらなるコスト削減やサービスの質的向上も期待できるでしょう。その点、下野市では職員の負担軽減やシステム障害時の迅速な対応、システムの安定稼働などを目的として、基幹系システムのサーバをTKCのデータセンターへ「ハウジング」しています。最近、「クラウド」という言葉をよく耳にするので、どうなんだろうと思っていたら、ハウジングも広義の意味ではクラウドサービスなんだそうで、我々はすでに取り組んでいたんですね(笑)。

──おっしゃる通りです。
広瀬
 いずれは、「スカイプ」機能を使って、市民と職員が顔を見ながら話をするようになるかもしれない(笑)。このように業務プロセスの改善や市民サービスの効率化にICTは不可欠ですが、顔を向ける方向を間違えてはいけません。我々が顔を向けるべきは市民であり、画面ではないんです。ICTはあくまでも我々の業務をサポートしてくれる道具であって、そこを絶対に間違えてはいけないと思います。
──今後のご計画を教えてください。
広瀬
 まちづくりの指針となる『下野市総合計画』(20~27年度)は今年度で前期基本計画が終了するため、現在、後期基本計画(24~27年度)の作成を進めています。今後もまちづくりの基本理念と将来像の実現を目指し、さまざまな施策を展開していきます。なかでも特筆すべきは「デマンドバス」と「新庁舎」です。現在、市内には民間のバスが3路線あるのみで、子どもや高齢者等の交通弱者の移動手段の確保が課題となっています。このため、市内全域の公共施設を結ぶ「デマンドバス」の検討を進め、子どもや高齢者・障害者など、すべての市民が利用しやすい交通環境を整備できないかと考えたものです。また、新庁舎の建設については次世代につなぐ施設として、経済性や機能性、効率性に配慮するとともに、災害時の防災拠点としての機能はもとより、人にやさしく、また情報発信や交流の場として誰もが気軽に立ち寄れ、市民から親しまれる庁舎を目指して検討を進めています。
──「思いやりと交流で創る新生文化都市」の具体像が浮かびますね。
広瀬
 いまほど、日本全体で支えあい、つながりあうことが求められているときはありません。震災後、「絆」という言葉がよく使われるようになりましたが、「絆」や「思いやり」「交流」という言葉の原点は「人と人とのふれあい」だと考えています。行政はこれを忘れてはならない。行政経営改革に取り組む職員たちは本当に大変です。でも、大丈夫。彼らはプロです。そのなかで私の役割は、みんなががんばれる環境や体制を創っていくことだと考えています。