電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

電子政府・電子自治体を加速させる取り組みのひとつとして、総務省が推進する「自治体クラウド」。東日本大震災を機に、にわかに注目されるようになり、この半年間で導入に向けた動きも急速に加速してきた。これによって、電子自治体も新たなステージに突入するといっても過言ではない。濱島秀夫・総務省地域力創造グループ地域情報政策室長へ、自治体クラウドの現状と今後の展望を聞く。

──クラウドへの関心が高まるなか今夏、『自治体クラウド推進本部有識者懇談会とりまとめ』と『自治体クラウド開発実証調査研究報告書』が公表されました。

濱島 総務省では、関係部局が一体となって自治体クラウドを総合的かつ迅速に推進するため、平成22年7月に総務大臣を本部長とする「自治体クラウド推進本部」を設置しました。その下部組織として同年9月に発足した「自治体クラウド推進本部有識者懇談会」では、自治体クラウドの推進と住民サービス向上のための電子自治体確立に向けた議論の成果として、今年6月に今後の方向性などを「とりまとめ」として公表しました。
 一方の「自治体クラウド開発実証事業」は、推進本部発足よりも早く、平成21年度より取り組んできたものです。この実証事業には6道府県78市町村が参加しました。具体的な成果は、ぜひ報告書をご覧いただきたいと思います。ここでは、実証事業を通じて、(1)情報システムの費用削減(共同利用による割り勘効果)、(2)情報システム管理業務の軽減、(3)行政改革の契機(実質的な業務の標準化)、(4)住民サービスの向上(地域ニーズに応える新規投資)、(5)データセンターの活用によるセキュリティ向上(バックアップ等)──など自治体クラウドのメリットがデータとして立証されました。これは我々にとっても大きな成果です。
 そして、いま実感しているのは、クラウドの普及が想像以上に早いということです。すでに実証事業へ参加した5道府県が本番移行を表明しているほか、全国の市区町村においても導入の検討が活発になっています。これは、一段と厳しさを増す財政事情や東日本大震災の影響など、さまざまな要因が相まってクラウドへの期待が急速に進んだものと考えられます。その意味では、いよいよ自治体クラウドも“実験”段階から“利活用”段階を迎えたということですね。

山積する課題解決への道筋

──有識者懇談会では、クラウド推進の課題として、「カスタマイズの制約」「相互運用性の確保」「情報セキュリティに係る技術的対策と法的留意点」などを挙げていますが、国としてはどのような対策を考えているのでしょうか。
濱島
 全国的に導入促進を図るためには、解決すべき課題が山積みです。例えばデータ移行に関する問題では、データの表現形式(データフォーマットやインターフェイス)の違いによる移行作業の負担や各団体が管理している外字の同定作業などがあり、クラウドを推進する上で弊害となっています。これについては、有識者懇談会でも「将来の円滑なデータ移行を担保しなければ新たなベンダーロックインを生む」と指摘されました。そこで平成23年度においては、総務省総合通信基盤局が中心となり、データの表現形式の標準化を進めるとともに、外字の実態調査などクラウド導入に向けた環境整備へ取り組んでいます。
 そのほかにも、「仮想環境上でのソフトウェアライセンスの考え方」などが指摘されていますが、私が心配しているのはそうした技術的課題とは別に「外部に預けたデータの保全」についてです。クラウドになると、市区町村は住民情報などを民間企業など外部へ預け、その枠組みのなかで運用していくことになり、従来のセキュリティマネジメントとは異なってきます。そのなかでデータをどう適切に管理するかは、極めて重要な問題でしょう。
 そのために市区町村とクラウドサービス事業者とのサービス提供契約はいかにあるべきか。これについては、市区町村とサービス事業者と一緒になって議論を深める必要があると考えています。
──なるほど。もう一つ弊害となりそうなのが、個人情報保護条例の目的外利用の禁止だと思いますが。
濱島
 個人情報保護の問題は、市区町村にとっても重要なテーマであり、ないがしろにすることはできません。そのため多くの市区町村が、個人情報保護条例において目的外利用の禁止を規定していますが、多くの場合は例外規定を設けています。その意味では、災害対応時などは現行の例外規定に準じることで、クラウドへの移行も十分対応できるのではないかと考えています。「データを庁舎外に保管・管理して運用する」のは前例がないという意見があるかもしれませんが、かつて電算センターの共同利用などでは「データを庁舎外部へ持ち出す」のはごく当たり前に行われていたことです。そこは、ぜひ柔軟な発想で、他団体とも情報交換しながら対応していただければと思います。
──サービスを提供する我々としても、もっとデータセンターの機密性や安全性を理解してもらう努力が必要です。この点、民間のデータセンターへ一定の基準を設けることなどは検討されていますか。
濱島
 それも有識者懇談会でいろいろと議論されたところです。今後検討すべき事項であることは確かですが、多くの市区町村が、情報セキュリティレベルが決して高いとはいえない庁舎内で情報を管理している現状をそのままに、民間のデータセンターにだけ基準を厳しくするというのもどうでしょうか。そこは、状況を見ながらどこで舵を切るかということになるでしょうね。

クラウドには多くの選択肢があるべき

──東日本大震災の衝撃が、自治体クラウド導入へ拍車をかけたとの話がありました。実際に当社のお客さまの動向を見ても、「住民情報の保全」を目的としてサーバのハウジングを考え始め、その検討過程で「コスト削減」の効果に惹かれクラウドを強く意識するケースがほとんどです。なかには、リプレース計画を前倒ししてクラウドへの移行を決めたというところも数団体ありました。
濱島
 サーバのリース契約などとの兼ね合いもあるため、まずはハウジングを行うというのも一つの選択ですね。とはいえ、もう一歩議論を進めてクラウドへ移行してもらうと、さらにいいことがあると思うんですが…(笑)。クラウドの利点は、自分たちでハードウェアやソフトウェアを保有せず、システムを共同利用することによる“割り勘効果”に加え、サーバ等の保守料がかからないといった「コスト削減」や、システムの開発・運用にかかる「要員や業務負担の軽減」などが期待されることです。
 また、不測の事態における業務継続性の確保や早期の行政機能の回復という観点からも、堅牢なデータセンターを基盤とするクラウドは現段階で最も有効な手段といえるでしょう。大震災を機に、改めて市区町村の情報システムのあり方が問われているいま、我々は今回の教訓を忘れることなく、普段の備えとともに不測の事態に対応できる仕組みを考えなければなりません。この点、クラウドは災害対策として万能ではありませんが、少なくともデータの安全性という点では大変有用であり、クラウドへ接続できる通信回線と端末などが確保できれば、どこでも早期に業務を再開することが可能です。実際、今回の震災では建物の倒壊・崩落や福島原発事故により庁舎移転を余儀なくされた例がありましたが、クラウドを活用していれば随分助かったのではないかと思いますね。
──実証事業では業務プロセスの標準化にも取り組まれましたが、クラウドと業務改善についてはどうお考えですか。
濱島
 やはり、クラウドに移行するのであれば、合わせて業務改善を行っていくのが本筋だと思います。ただ、業務改善は大事なことですが、それにより住民の不満や不便さが増すようでは本末転倒です。何の業務を、いつまでに、どのように改善するかは個々の市区町村によって状況が異なるでしょうし、業務によっても改善の必要度合いは違います。また、その方法についても、一から手順を見直してプロセスを組み直すというやり方だけでなく、パッケージシステムに業務を合わせてみるという改善もありえるでしょう。市区町村は自らの判断と責任により、地域の実情に沿った業務改善策を考えていただきたいですね。
 その意味では、私はクラウドについても「この方向であるべき」といったことは考えていません。個別にシステムを開発するのか、パッケージを利用するのか、いろいろな考えがあっていい。多種多様な選択肢のなかから、市区町村が自ら最適な方法を選択できることが重要なんだと思います。

特別交付税など小規模団体を支援へ

──今後の展望としては、番号制度との関係も気になるところです。
濱島
 番号制度とは、社会保障制度や税の分野を一体的にとらえ、制度の効率性・透明性・公平性を高めるために必要な社会インフラとして検討されているものであり、戦後最大の改革です。当然のことながら番号制度を所管する側としては、クラウド推進にあたっても常に連携を意識していきたいと考えています。
 また、我々のミッションは、自治体クラウドを、「地方公共団体が欲する適切なサービスを、適切な対価で利用でき、かつサービスの選択肢がある」という仕組みにすることです。今後については、実証事業や有識者懇談会の成果も踏まえ、地方公共団体における自主的な取り組みが進むよう環境整備などへ努める方針です。なかでも重要だと考えているのは、小規模団体をどう支援していくかということです。特にクラウド移行にあたっては新たな経費も発生することから、そうした初期投資の支援策として、平成23年度から情報システムの集約と共同利用に向けた計画策定、データの移行にかかる経費について特別交付税の措置を講じることとなりました。ぜひ、活用していただきたいと思います。
──特別交付税の措置で、クラウド普及へますます拍車がかかるのでは?
濱島
 ぜひ、そうあってほしいですね。
 最後に、市区町村へ二つのお願いがあります。まず、クラウド移行に関する各種課題については走りながら考えている状況で、今後、クラウドが全国へ普及する段階になれば、さらに多くの課題が表面化するかもしれません。我々としては、これら一つひとつへ真摯に対応していくつもりですが、ぜひ皆さんから現場の意見を聞かせていただきたいと思います。
 そして、もう一つが、業務継続性の確保について再検討してほしいということです。総務省では、平成20年に『地方公共団体におけるICT部門の業務継続計画(BCP)策定に関するガイドライン』を作成しました。しかし残念ながら、市町村の導入率は未だ5%程度に止まっています。今後、大震災の教訓やクラウドなど情報通信技術の進展を踏まえガイドラインを改定する予定ですが、災害はいつ発生するかわかりません。新たなガイドラインを待つまでもなく、できるだけ早くBCPを導入していただきたい。
 市区町村にとってクラウド移行は新たなチャレンジであり、不安もあるかと思います。しかし、その最終目標は、これにより生み出されたコストや要員などを住民サービスへ再投資し、地域力の創造へつなげていくことなんです。また、クラウドの普及によって、その先に続く次世代電子行政サービスの道筋も明確となることでしょう。そのためにも単なるコスト削減だけでなく、業務継続性の確保なども含めた「国民本位の電子行政の構築」という広い視点からクラウドの検討を進めていただきたいと思います。