電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

政府・与党社会保障改革検討本部は6月30日、『社会保障・税番号大綱』を決定した。早ければ今秋、関連法案を国会へ提出する方針で、平成26年6月にも「番号制度」がスタートする。新たな社会インフラとしての制度の意義やメリット、今後想定される市区町村での準備・検討作業などについて、内閣官房社会保障改革担当室・岡本誠司参事官に聞く。

──社会保障改革担当室の位置づけについて教えてください。
岡本
 内閣官房社会保障改革担当室は、政府・与党の社会保障改革検討本部の発足に合わせて、その事務局として設置されました。その後、平成23年1月に組織を大幅に拡大しており、現在、「社会保障・税の一体改革」を担当するグループと、「社会保障・税に関わる番号制度」(以下、「番号制度」という)を担当するグループのそれぞれが積極的に活動しています。

番号制度は、次代を担う社会基盤

──今年6月、『社会保障・税番号大綱』が示されましたが、番号制度検討にいたった背景などを教えてください。

岡本 いま、日本においては、少子高齢化により高齢者の増加と労働力人口の減少が続き、また格差拡大への不安が高まっています。さらに昨今のICTの進展に合わせ、さまざまな制度の設計もこれを適切に踏まえたものとすることが求められています。特に、社会保障や税の分野においては、国民の信頼を高める上でもICTの活用で制度・運営の効率性や透明性、公平性を高めることが、極めて重要です。しかし現状では、複数の機関に存在する個人や法人の情報が“同一人の情報”であるということの確認を行える基盤がありません。これは大きな問題だと思います。
 こうした背景を踏まえて、社会保障制度や税の分野を一体的にとらえ、制度の効率性・透明性・公平性を高めるために必要な社会インフラとして検討されているのが「番号制度」です。これにより、国民一人ひとりの所得・自己負担等の状況に応じたきめ細やかな制度設計ができ、その結果、真に手を差し伸べるべき人に対する社会保障の充実や、負担・分担の公正性の確保、各種行政事務の効率化が実現されます。
 番号制度については、すでに多くの国で利用されており、先進国で導入していないのは、日本だけといってもいい状況です。
 そうしたことから、「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」が設置され、以来、制度の導入に向けた検討が重ねられてきました。そして、今年1月31日に『社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針』(政府・与党社会保障改革検討本部)が、次いで4月28日には『社会保障・税番号要綱』がそれぞれ決定されました。
 6月に決定された『社会保障・税番号大綱』は、これらを踏まえて今後の法案策定を念頭に、具体的に法令その他で措置する制度設計の内容、制度の円滑な導入、実施、定着、利便性の向上に向けた実施計画などの方向性が示されたものです。特に、要綱にはなかった具体的な利用場面が詳細に大綱へ盛り込まれた点において、大きく前進する内容になったと感じています。
──番号制度とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
岡本
 番号制度は、「付番」「情報連携」「本人確認」の三つの仕組みで構成されます。
 まず「付番」とは、国民一人ひとりに新たな番号である「マイナンバー」を最新の基本4情報と関連付けて割り振るものです。これについては、(1)国民一人ひとりに一つの番号が付与されていること(悉皆性)、(2)全員が唯一無二の番号を持っていること(唯一無二性)、(3)「民─民─官」の関係で利用可能なこと、(4)目で見て確認できる番号であること、(5)最新の基本4情報が関連付けられていること──の五つの特性を併せ持つ番号とします。また、対象となるのは、住民票コードが住民票に記載されている日本国民および中長期在留者、特別永住者等の外国人です。なお、法人等に対しては、「法人番号」を付番します。法人番号は、商業・法人登記の申請に係る会社法人等番号を基礎としたものとなります。登記のない法人等については、登記のある法人等番号と重ならない番号を付番します。
 二つ目の「情報連携」は、複数の機関において、それぞれの機関ごとに番号等を付けて管理している同一人の情報を紐付けし、それを相互に活用する仕組みのことです。情報連携の範囲は当面、年金、医療、福祉、介護保険、労働保険、国税・地方税の6分野とします。将来的には、この情報連携基盤により、幅広い行政分野や、国民が自らの意思で同意した場合に民間のサービス等で活用する場面においても情報連携が可能となるようにすることを想定しています。
 国民にとっては、そうした情報連携で利便性が向上する一方、個人情報が集積されることに対する不安もあるでしょう。これについては、情報連携を行う個人情報の種別やその利用事務の範囲などを法律や政省令で明確に規定し、それ以外の情報連携を禁止するという考え方に立っています。また、自己情報のコントロール(自己情報コントロール権)という観点から、国民が自分の番号に関する個人情報をインターネット上でいつでも確認できる「マイ・ポータル」を設ける予定です。さらに、個人情報保護に資するため、番号に係る個人情報取扱いの監督や監査等を行う強力な第三者機関を設置するなど、国民が安心して番号制度を利用できるよう十分な個人情報保護方策を講じることとします。
 最後の「本人確認」は、個人が「番号」を利用する際に本人であることを証明するための仕組みのことです。具体的には、現行の住民基本台帳カードを改良し、券面とICチップに番号と基本4情報および顔写真が記載され、公的個人認証サービスが利用可能な「ICカード」を国民に交付し、対面での本人確認やオンラインでの認証に活用することを考えています。

三つの側面で、業務が変わる

──番号制度により、どんなことが実現されるのでしょうか。
岡本
 大綱では、番号制度の導入により、(1)より細やかな社会保障給付の実現、(2)所得把握の精度の向上等の実現、(3)災害時の活用、(4)自己の情報や必要なお知らせ等の情報を自宅のパソコン等から入手できる、(5)事務・手続の簡素化、負担軽減、(6)医療・介護等のサービスの質の向上等──の実現を想定して検討を進めるとしています。
 例えば、政府は医療や介護、障害、保育にかかる自己負担額を合算し世帯収入に応じて上限を設定する「総合合算制度」(仮称)の導入を打ち出しています。また、これまでも「高額医療・高額介護合算療養費制度」がありましたが、超過分は後から還付するという仕組みを見直し、利用者が上限額以上は払わなくてもいいようにすることも考えられています。
 さらに、今年3月には東日本大震災が発生しましたが、そうした防災福祉の観点からも番号制度の活用が期待されています。これは、まさに現場の声といえると思います。
 加えて、先述の「マイ・ポータル」は、公平なサービス給付につなげていこうという理念も踏まえて検討が進められているものです。国民が自分の個人情報をいつ、誰がアクセスしたのかなどを確認できることに加えて、各種電子申請や行政機関等からのお知らせの確認にも利用できます。それに伴って、手続の簡素化や負担軽減も可能となります。
 最後の医療・介護等のサービスの質の向上は、特に大きな期待が寄せられている分野です。これについては、病院や介護事業者、薬局など民間との情報連携でもあることから、関係者の意見も踏まえつつ施策の優先順位や利用場面の拡充を検討していくことになると思います。
──情報連携の対象となる6分野は、住民に身近な市区町村とも密接に関連しますが、業務はどう変わるのでしょうか。

岡本 地方公共団体と番号との関わりとしては、三つの側面があります(図1)。まず、「番号制度そのものを動かす根幹となる業務」で、主に住民担当課が関わる分野です。例えば、出生等により新たに住民票に住民票コードを記載した場合には、番号の生成を行う機関から指定された番号を住民票へ記載するとともに、書面により個人へ通知し、ICカードを交付していくという業務が考えられます。
 二つ目が「サービス提供者」としての側面で、社会保障担当課・税務担当課等に関わる業務です。例えば、「高額医療・高額介護合算制度の改善」や「保険証機能の一元化」、あるいは税務の視点では「所得の過少申告や扶養控除のチェックの効率化」「申請等の際の添付書類(納税証明書等)の削減」などが挙げられるでしょう。
 三つ目が、「職員の雇用主」としての側面です。これは企業も同様ですが、人事課や給与担当室では、給与等の支払者として支払調書や源泉徴収票への「番号」の付記を行う事務が発生します。
 番号制度は、このように多くの業務へ影響を与えますが、業務が変わることの最大の効果の一つは確認作業の簡素化だと思います。私も市へ出向した経験がありますが、市区町村では住民に提供するサービスの受給判定などの確認作業に、非常に多くの手間と時間がかかっていますよね。番号制度により、これらの事務の簡素化が図られ、経費削減や給付の適正化が期待されますし、ワンストップサービスの推進など住民サービスの充実にもつながります。その意味で番号制度は、市区町村にとってBPR(業務プロセスの分析に基づく業務の最適化)のチャンスだといえるでしょうね。
──そのために、市区町村では何を考え、どんな準備が必要ですか。
岡本
 まずは、既存の業務システムの改修が必要となります。現在のスケジュールで考えると、平成24年度から対応を検討していただく必要がありますが、具体的に何をどうするかについては今後の政府の検討状況等を踏まえる必要があります(図2)。情報連携を実施するにあたり業務システムが“縦割り”の状態では手間やコストがかかることも想定されます。そのためにも、早めに業務システムの調査・分析を行うことが肝要となります。

 また、いまある業務をそのまま移行するのではなく、番号制度導入に合わせて既存の業務のやり方を見直すことも必要です。なかでも紙を前提とした添付書類を、極力減らすことを考えていただきたいですね。そして将来的には、従来の申請主義を脱却し、行政が主体的にサービスを提供する「プッシュ型サービス」へ転換していかなければならないと思います。さらに体制の整備ということでは、窓口の一本化など体制面での見直しも欠かせません。
──なるほど。
岡本
 また違った論点として、個人情報保護条例の見直しの検討があります。現在、自治体のなかで条例により情報の外部提供や目的外利用、オンライン結合を厳しく禁止しているところがありますが、これについては個人情報の連携や利活用も十分考慮した対応とすることを考えていただきたいと思います。番号を利用できる範囲は法律等で限定されますし、乳幼児医療など自治体単独事業についても、自治体が独自に条例を定めることで番号を利用できるようになるというメリットなども考えていく必要があります。
 一方で、情報セキュリティ対策の強化も必要です。例えば、監視機能の体制整備やアクセスログの管理、LGWANと庁内基幹系ネットワークの適切な接続、設備・回線の強化(LGWAN回線の強化)、手作業からシステム連動へ、権限がある者以外の利用の制限など、セキュリティポリシーの改定が必須となります。

変化はチャンスになる

──市区町村にとって、これだけ大きな業務改革は初めての経験になります。
岡本
 そうですね。番号制度の導入は、市区町村にとっても一大改革といえるでしょう。導入に向けた検討は、これまでのところ概ね順調に進んできたと思います。システムの詳細については、制度や具体的に情報連携が行われる事務が確定していくなかで固まっていくと考えています。大綱の公表で、具体的な議論の“土俵”ができました。今後、法案策定に向けて、さらに議論を掘り下げるなかで、仕様等も含めたシステムの検討も進めていきますが、市区町村では何から検討すればいいのか戸惑いがあると思います。そのため、内閣官房も一体となって今秋以降、自治体の課題を研究し対策を検討するための議論を開始したいと考えています。
──今後の計画はいかがですか。
岡本
 番号制度の導入時期については、制度設計や法案の成立時期により変わりますが、現時点では、法案成立後、可能な限り早期に第三者機関を設置し、平成26年6月に番号を交付し、平成27年1月から可能な範囲で番号の利用を開始することを目途としています。
 また、番号制度の周知・広報も重要です。そこで、今年度と来年度の2年間をかけて「47都道府県リレーシンポジウム」を開催します。また、番号制度は市区町村、都道府県の業務へ大きな影響を与えることから、地方税電子化協議会のブロック説明会やさまざまな機会をとらえて制度の説明を実施していきたいと考えています。
──計画通りであれば非常に短期間で導入準備を進めることになり、市区町村にとっても正念場となりそうです。
岡本
 番号法や個人情報保護、業務システムをどうするか、また、他のさまざまな機関との関係がどうなるのかなど、番号制度はとにかく論点が多いのが実情です。全体の概要を把握するだけでも容易ではありません。例えば一人の職員に番号制度を担当させて、すべてを把握させるということは到底無理というべきでしょう。そのため、ぜひ庁内にプロジェクトチームを設置して、番号制度で業務や住民サービスをどう改善できるのかなどさまざまな論点について対策を考えていただきたいと思います。地方団体の現場には、いろいろな知恵やアイデアが溢れています。私は市役所勤務の時代にそれを実感したものですが、今回も現場からいろいろな知恵やアイデアが出てくると信じています。プロジェクトの円滑な推進には旗振り役の存在も重要で、これはぜひ首長さんにお願いしたいですね。短期間で一大改革を成し遂げるのは大変です。でも、変化は必ずチャンスになります。国がいうから仕方なく対応するというのではなく、ぜひ住民サービスを向上するチャンスだ! という前向きな姿勢で取り組んでいただきたいですね。

*所属および内容は、平成23年7月取材当時のものです。