電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

タイトル

東日本大震災を機に、社会全体の “価値観”が変わり、災害発生時の市区町村における業務継続への関心が高まっている。震災後、市区町村では不測の事態に備えて、住民情報など重要データを安全な場所に保管するため「サーバのハウジング」や「クラウド」へ移行する動きも目立ってきた。そこで、災害に強い住民サービス実現への取り組みを考える。

 平成23年3月11日、14時46分、三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震が発生した。地震の規模を示すマグニチュードは9.0。この地震により、宮城県栗原市の震度7を筆頭に、東北地方から関東地方の広範囲が強い揺れに見舞われ、ほぼ全国で震度1以上を観測した。また、9月末までに震度5以上だけでも40回を超える余震が発生しており、今後しばらくは注意が必要といわれている。
 未曾有の被害をもたらした東日本大震災。なかでも岩手、宮城、福島、茨城、千葉の5県の被害は甚大で、復興に向けた取り組みもここにきてようやく本格化し、一日も早い復興が望まれている。
 ところで、今回の地震は単一ではなく、実は四つの震源域で地震が連続して発生した「連動型地震」だった。これにより以前から連動発生が予想されてきた東海、東南海、南海の地震の被害想定地域では一層の警戒感を強めている。最悪の場合、これに四国・近畿圏のはるか沖合と日向灘を加えた5つの地震が連動する危険も指摘されており、そうなれば東北地方太平洋沖地震並みの巨大地震となることは確実だ。そこで政府・地震調査委員会は、5連動型地震を想定した調査研究に着手し、来年春にも結果を公表するという。

震災が導入促進したクラウド

 震災を機に、住民は万一の事態にも自分たちが必要なサービスを受けられるのか危機感を強めたといえるだろう。これにより今後、非常時において人命救助の次に、行政サービスの継続・早期回復が重要な焦点となることは間違いない。そこで、改めてICT部門の「業務継続計画(BCP)」の重要性が再確認されている。
 実際、震災に見舞われた民間企業では、同じように被災しても、BCPを策定し訓練を積み重ねていたかどうかで復旧スピードに差が生じた。これまで市区町村ではほとんどがBCPを策定していなかったが、ここにきて宮城県が県内市町村へ計画策定を指導するなど、同様の動きは全国各地に拡がることが予想される。そこで重要なのは、被害想定の大きさを考えることではない。いかなる場合にも重要業務を継続、あるいは早期に再開させることだ。
 今回の震災で被害を拡大させた最大の要因が、大規模な津波の発生だった。その最高到達点は海抜40メートルに達したとする調査結果も報告されている。だが、震災では大規模な液状化現象や、2,115か所に上る河川堤防の決壊・沈下による冠水被害も数多く発生していることを忘れてはならない。そして、東京電力福島第一原子力発電所の事故もある。例え地震で建物や職員が無事でも、業務の継続が困難になることがあるのだ。
 いかなる場合にも重要業務を継続、あるいは早期に再開させるには、直近までのデータの保全が大前提となる。そのため、いま多くの市区町村がデータ保全体制の見直しへ取り組み、その仕組みとしてデータセンターを活用しようという動きも活発になってきた。
 例えば、TKCではデータセンターを活用したデータ保全の仕組みとして、(1)サーバの第2次バックアップサービス、(2)サーバのハウジングサービス、(3)TKCクラウド──の三つを用意している。
 (1)は、庁内のサーバとデータセンターをLGWAN等セキュアな回線でつないで、30分ごとにデータをバックアップするもの。(2)と(3)はデータセンターへサーバを設置または用意する仕組みである。
 市区町村は個々の状況等に応じていずれかの方法を選択することになるが、やはり震災の影響を受けた地域や比較的高い確率で地震発生が予想される地域では、ほとんどが(2)か(3)を指向している。そうした団体の動向を見ると、当初は「ハウジング」に着目し、検討過程でコスト削減効果のある「クラウド」を最終ゴールとして認識するようだ。なかには、リプレースを前倒ししてクラウドへの移行を決断する例も複数団体あった。まさに震災がクラウド導入を促進する結果となっているわけだ。
 その利用形態は、複数団体で協議会を設立し費用按分する「共同運営組織型」と、ベンダーのサービスを利用する「サービス利用契約型」があり、それぞれにメリット・デメリットがある。最近の傾向としては、共同運営組織型の検討を待たずに単独で取り組む団体が増えるとともに、複数団体が集まりサービス利用契約型を検討する例も見られるようになってきた。

クラウドだけでは万全ではない

 クラウドは、通信回線などの環境が整えば、場所を選ばずに利用できるという利点がある。だが、業務継続性の観点で見ると、現時点では万全な対策とはいえない。なかでも最大のネックは通信回線だ。いくら堅牢なデータセンターにデータやシステムを移しても、回線が寸断されれば業務は継続できなくなるのである。
 今回の震災でも固定電話約190万回線が被災し、インターネット接続サービスや専用線サービスなどもほぼ壊滅状態となった。そして一部地域を除き、通信各社の固定通信サービスがほぼ震災前の水準となるのに4月末まで要したのである。そのため総務省では急遽、「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」を発足し、8月に中間報告書をまとめたが、市区町村としても“災害に強いネットワーク”の早期実現が待たれるところだろう。
 ちなみにTKCでは、顧客団体とデータセンター間の回線が切断した場合に備え、業務継続の支援策として、いま三つの手立てを考えている。
 その一つが、バックアップ回線としての携帯電話網の活用だ。震災では携帯電話も設備等が被災し、また電力供給停止による運用停止に陥ったが、その後、通信キャリア各社は災害対策の強化を積極的に進めている。また、固定回線と比べても、携帯電話網は数日で復旧する可能性が高い。そこでモバイルパソコンと通信カードを使って、どこでも業務継続が可能な環境を準備しようというものだ。TKCではすでにこれを実用化し、営業課のシステムデモなどに活用している。

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 第二が衛星回線をバックアップに利用する仕組みで、今夏に社内で実証実験を行った。震災後、自治体や企業を中心に災害対策用として衛星携帯電話の需要が急伸しているが、現状では回線数が一般の携帯電話より少なく利用が集中した場合はつながらなくなる可能性もある。実験結果からも実用化にはまだ解決すべき課題が多いことが判明しており、今後も継続して調査研究にあたる計画だ。
 そして、第三が「照会・発行サーバ」である。ネットワークを二重化、三重化しても切断リスクを解消できないならば、予め切断しても最低限の業務を継続できる“代替手段”を用意しておこうというものだ。通常時は、庁内に設置された照会・発行サーバとデータセンター内のサーバとの間でデータを同期しておき、万が一、回線が切断された場合は照会・発行サーバへ自動的に切り替わり、これをディザスタリカバリ対策のためのサーバとして利用することになる。なお、この仕組みはいまのところ照会・発行業務に限られるが、今後、異動処理業務にも対応する予定である。
 ちなみにクラウド利用の例ではないが、その効果を発揮したのが、今年9月に台風12号に見舞われた和歌山県新宮市熊野川行政局のケースだ。この災害で、熊野川行政局は2階の天井まで水が達するという被害を受けたが、電力が数日で復旧したことで現地に照会・発行サーバを仮設し、業務を再開したのである。
 災害は二重、三重の対策を用意してもなお、想定外の事態が発生する。それぞれの市区町村が設備面の対策にコストをかけられればそれに越したことはないが、現実的には難しい。だからこそ許容できるコストで、運用面において、どんな状態に陥ってもその場に応じた手立てをすぐに講じられるように、できるだけ多くの代替手段を用意することが大切なのである。
 この点、重要業務を継続するためのデータやシステムを守るということでは、現時点ではクラウドやハウジングが最も有効であろう。これにさまざまな代替手段を付加することで、災害等の影響を最小限に食い止め、重要業務の継続や早期復旧につなげることも可能となる。これぞまさに“安全・安心・便利”な情報システムといえよう。
 また、業務継続の観点で意外と忘れられがちなのが「システムの運用管理」の問題だ。東日本大震災では、被災地支援のため多くの市区町村から職員が派遣されたが、慣れない業務システムに苦戦した例もあると聞く。一方で岩手県大槌町では、同じTKCシステムを利用する岩手県矢巾町の電算職員がシステムの運用管理をサポートしたという事実もある。ICT部門のBCPでは、こうした自治体間の相互協力体制の検討という視点も欠かせない。さらに、被災団体の一部では、震災後の混乱した状態のなかでコンピュータウイルスの感染被害も報告されており、こうしたことへの対策も考えておく必要があるだろう。
 市区町村では、これまでシステムの見直しにあたっては平常時におけるコスト削減や法制度対応、住民サービスの拡充などに着目してきた。だが、これからは非常時の業務継続性の確保も重要要件となったのである。住民が安心できる“災害に強い行政サービス”へ、ICT部門のBCPはもはや待ったなしだ。市区町村の決断が求められる。