電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

寺原

秋田市と田辺市のサービス開始で、地方税の電子申告導入がいよいよ本格的に始動する。
納税者の利便性向上か、費用対効果か──思い悩む時期は過ぎた。
“時代の風”が電子申告へ向けて吹き始めたいま、市区町村が決断すべき時も近い。
そこで、電子申告の今後の展望について、総務省自治税務局企画課・寺崎秀俊税務企画官に聞く。

──今年1月、秋田市と田辺市で地方税の電子申告がスタートし、全国の市区町村がその成果に注目しています。今後、サービス開始に向けた動きも活発化すると思われますが、改めて電子申告の意義や目的についてお聞かせください。
寺崎
 平成13年1月に「e-Japan戦略」が策定されて以来、国としても電子政府実現のための重要な柱として国税・地方税の電子申告を推進してきました。このうち地方税の電子申告を推進する背景としては、二つあると考えています。まず一つが「納税者の利便性向上」で、これは電子申告推進におけるキーファクターです。地方税の場合、国税とは異なり47都道府県と1800の市区町村のそれぞれが課税団体であり、納税者は個々の団体に対して申告手続きをしなければなりません。こうした手続きを簡素化し、社会全体でかかる費用を最小化する仕組みの整備が必要だということです。そしてもう一つが、納税者への「コンプライアンスの確保」です。ここ数年、地方分権の高まりとともに地方税の位置づけが大きく変化しました。例えば、平成15年度の税制改正では、法人事業税に外形標準課税という地方税独自の新たな課税方式が導入され、さらに平成19年度からは3兆円の税源移譲が実施されたことで、個人住民税が所得税とも肩を並べる重要な税目となりました。このように地方税が、その重要性を増すなか、納税者へのコンプライアンスが強く求められています。真面目に税金を払っている納税者が不公平さを感じることなく、税に対する信頼を確保するためにも、電子化による税務執行体制の効率化を進める一方で、税務調査や滞納整理の充実を図り、常に適正・公平な賦課・徴収を実現していくことが必要です。

給報の電子化、半月で3万社が申告

──しかし、実際には地方税の電子申告はなかなか進捗していません。この現状をどうご覧になっています。
寺崎
 地方公共団体が集まって、平成15年8月に地方税電子化協議会を発足(平成18年4月に社団法人化)し、地方税ポータルシステム「eLTAX」を平成17年1月から稼動させました。現在、電子申告のサービスを実施しているのは、都道府県と15の政令指定都市、相模原市と秋田市と田辺市です。町村に至ってはゼロという状況で、政令指定都市以外の市区町村の参加が低迷しています。その要因としては、厳しい財政状況を背景に、新規事業へ取り組む余裕が少ないことに加え、電子申告の必要性がきちんと認識されていないことがあると思います。市区町村が地方税の電子化を検討する際、「まだ利用件数が少ない」「導入コストの割にメリットが少ない」「これで何人削減できるのか」などを考えることが多いのではないでしょうか。その結果、納税者はサービスを実施している団体が少ないから利用しない、一方の市区町村は利用率が上がらないから電子申告を始めない、という悪循環に陥っているのが現状です。この悪循環を断つためには、まず、実施団体数を増やし、利用率を向上させていかなければなりません。その意味で、給与支払報告書の電子化は、納税者・市区町村の双方にとって“キラーコンテンツ”といえ、ぜひこれを電子申告普及の起爆剤にしたいと考えています。

──与支払報告書の場合、いま特別徴収義務者はそれぞれの市区町村へ提出するために多くの手間をかけています。これが電子申告になれば一か所へ送信すれば済むため、非常に便利です。特に大企業では、事業所が全国各地に存在するため、電子申告を利用したくても利用できません。
寺崎
 現状を見ると、給与支払報告書を提出される企業は電子データから紙に出力して申告し、市区町村ではその紙を見ながら再び電子データに入力し直しているんですよね(笑)。私がさらに驚いたのは、国税のe─Taxで申告された電子データもわざわざプリントアウトしたものを税務署から紙で受け取り、市区町村はそれをパンチ入力している実態です。まったく無駄な話で、こうした状況は改善しなければなりません。

──その点では、1月15日から給与支払報告書の電子化がスタートしましたが、利用状況はいかがでしょうか。
寺崎
 1月末までに、全国17市に対して行われた給与支払報告書の電子申告件数を見ると、延べ法人数で約3万社となっています。詳細な分析はまだこれからですが、わずか2週間でこれだけ利用されたということは、納税者の期待度の高さを示しているといえるでしょう。この成果から、いずれ全国へサービスが拡がれば、間違いなく多くの企業が利用するだろうという確信を抱きました。特に、田辺市の結果を見ると、小規模な団体でも十分な可能性があると実感できます。今回、秋田市と田辺市によって、地方の一般市の取り組み事例が示されました。次はぜひ電子申告を導入した“最初の町” “最初の村”を誕生させたいですね。

全市区町村の参加へ、3つの施策

──いま、TKC全国会では、会員の税理士がそれぞれ地元の市区町村へ、積極的に電子申告の早期実現のお願いをしています。そうした活動を通じて、市区町村の方のお話をうかがうと、最大のネックはコストだという意見が多いですね。その点では今後どのような推進計画をお考えなのでしょうか。
寺崎
 総務省としても、全国の市区町村へ電子申告を普及促進するため、現在いくつかの施策を考えています。まず一つが、「LGWANを活用したASPサービスの開始」です。これまで都道府県や政令指定都市では、電子申告に必要な機器やシステムを単独で構築・運用してきました。しかし、この利用形態では小規模の市区町村にとって費用負担が大きく、なかなか導入が困難です。そこで、新たな共同利用形態として今年1月にサービスを開始したのがLGWAN-ASP方式で、秋田市と田辺市もこれを採用しました。すでにすべての市区町村に回線がつながっているLGWANを介して提供される民間会社のASPサービスを利用することで、市区町村では独自のサーバ設置や維持管理が不要となり、単独導入の場合に比べてシステムの構築・運用にかかるコストをかなり圧縮することができると聞いています。また、電子申告の受付システムと既存の基幹税務システムとの間で直接データ連携を行うためには、基幹税務システムの改修費が別途発生しますが、媒体を介して既存システムとのデータ連携を行うことも可能です。つまり、電子申告はフルセットで整備しなくても、団体規模に応じて定額かつ低廉に導入できるわけです。こうしたことにより、市区町村にとって参入障壁の一つが取り払われると考えています。

──なるほど。
寺崎
 二つ目が、「公的年金からの個人住民税の特別徴収のスタート」で、現在、所要の法改正案を国会へ提出しています(編集部注:2月初旬取材時)。これは電子申告とは直接関係はありませんが、特別徴収を行うためには、社会保険庁などと全国1800の市区町村との間で情報のやりとりが発生します。しかし、そのために改めてシステムを整備するのは二重投資となることから、両者間の情報振り分けのための経由機関として地方税電子化協議会を位置づけ、協議会と市区町村間の情報のやりとりはeLTAXの仕組みを使って行おうと考えています。これにより、制度的にすべての市区町村が協議会とつながる必要性が生じます。法案が成立すれば、特別徴収のスタートは平成21年10月からですが、平成21年1月にはデータのやりとりが発生します。過渡的な措置は必要ですが、遅くとも2~3年のうちに全市区町村にeLTAXへ参加してもらいたいと考えています。

──ということは、数年のうちにすべての市区町村で、電子申告が始まる可能性も高まるということですね。
寺崎
 そうですね。恐らくこれをおいて他に、地方税の電子申告が普及するチャンスはないでしょう。公的年金等受給者にかかる個人住民税の特別徴収制度の早期導入は、市区町村からの要望です。また、納税者サイドからは地方税の電子申告への期待が高まっています。このことからも、eLTAXをすべての市区町村に導入するのは喫緊の課題であり、この機会に一気呵成に地方税の電子化を推進したいというのが、私どもの考え方です。なお、公的年金からの特別徴収に必要なシステム開発経費については、所要の地方交付税措置を講じることとしています。電子化にあたっては、県域単位・広域単位での共同処理とするか、市区町村の単独処理とするかは個々に判断していただければと思いますが、小規模な団体でも導入しやすいように、ASPのベンダー各社にはできる限り安くご提供していただくよう、ぜひお願いしたいですね。


最終目標は、コンプライアンス確保

寺崎 さらに三つ目が「国税の電子申告との連携」で、これについてはすでに国税庁と協議を開始しました。まずは税務署から市区町村へ紙で渡されるe─Taxの申告データについて、関連情報も含めて電子的な連携をしていければと考えています。これが実現すれば、国税の電子申告が増えれば増えるほど地方税の課税事務も楽になります。

──おっしゃる通りですね。
寺崎
 また、国税と連携することで市区町村にとっても、電子申告を導入するメリットがさらに大きくなります。そして近い将来、すべての市区町村で給与支払報告書が電子化されれば、逆に地方税のデータを国税の源泉徴収票としてリンクさせ、ワンストップサービスを実現することも可能です。そこまで到達すれば、概ね完成された国税・地方税の電子申告の姿といえるのではないでしょうか。

──お話しをうかがい、地方税の電子申告に明るい未来が見えてきました。
寺崎
 まだ法案審議中のため、現時点ではあくまでも私どものイメージの話ですが、総務省としても、今後、本腰を入れて地方税の電子申告普及促進へ取り組んでまいります。その際、市区町村の首長や議会の皆様に、地方税の電子化へのご理解を深めていただきたいと考えています。いま市区町村の財政はどこもが逼迫しています。そうしたなか、納税者には「地方税」という形で、これからも地域社会に必要な財源をご負担いただかねばなりません。しかし同じ納税者へかける“負担”でも、「申告するための負担」はできる限り小さくすべきです。課税サイドの都合だけで電子化を見送っていると、納税者に対し行政は十分な説明責任を果たせないと思います。納税に関し、社会全体でかかる費用を最小化し、コンプライアンスを確保する──このための基盤整備が地方税の電子申告の究極の目的だということを、より多くの方にご理解いただきたいと思います。