電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

『IT新改革戦略』が掲げる目標年次まであと2年。電子自治体構築へ向けた整備は着々と進む一方で、使い勝手の悪さからオンライン利用率が伸びない現状も指摘されている。
そんななか、県域全体で住民や企業に身近で便利なオンラインサービスを拡充させているのが、茨城県と県下44市町村だ。全国屈指の電子自治体先進県に、その取り組みの模様を聞く。

──昨年3月に公表された『新電子自治体推進指針』において〈共同化・標準化の一層の推進〉が掲げられ、いまや電子自治体構築において、共同アウトソーシングは一つの大きな流れとなっています。茨城県として、共同アウトソーシングへ積極的に取り組まれた経緯などについてお聞かせください。
皆川
 茨城県では〈県民1人1人がうれしいと実感できる情報交流社会の実現〉を目指して、平成18年2月に『茨城県IT戦略推進指針』を策定しました。また、これを具体的に進めるため『茨城県IT戦略推進アクションプラン』を策定し、県民生活、産業活動、行政運営へのIT活用を積極的に推進しています。行政手続のオンライン化など県と市町村との連携による各種住民サービスの展開もこれに沿って進めているもので、現在、7つの共同アウトソーシング事業を実施しています。

市町村との連携・共同化の軌跡

皆川 共同アウトソーシング事業の最初の取り組みとなったのが、「いばらきブロードバンドネットワーク(IBBN)」の整備でした。これは県庁と県の出先機関、県内全市町村を結ぶ、高速・大容量の情報通信ネットワークで、幹線は2.4ギガビット、市町村や県の出先機関と幹線を結ぶ支線は100メガビットという高速回線で結ばれています。実は、平成11年に現庁舎の竣工と合わせて庁内の端末共用化を進める際に、県庁と出先機関を結ぶ自前回線を整備したいという話がありました。しかし、当時の通信速度は64キロビットのデジタルアクセス網がやっとという状況で、回線が細く、高額な通信コストも発生することから、情報化を図る上でのボトルネックとなっていました。とはいえ将来、地域間競争の優位性を保ち、少子高齢化社会にあっても活力に満ちた県として茨城が発展していくためには、県民や企業、行政が便利に、かつ安価に利用できる情報通信基盤の整備が不可欠と考えました。そこで、県と市町村が一緒になってIBBNを構築し、平成15年4月に運用を開始しました。このIBBNは、民間企業にも無料で開放しており、現在70社以上に利用されています。

──なるほど。まずはIBBNという基盤を整備し、それを活用する事業として、電子申請などの行政手続オンラインサービスを拡充されてきたわけですね。
皆川
 はい。すでに通信インフラが整備されているため、新たなサービスを開始する際にも回線の準備や、そのコストの心配をする必要がなく、容易に行政手続オンラインサービスを実現することができます。

──県内の全市町村が足並みを揃えて、共同化へ取り組まれる秘策は?
皆川
 IBBNの整備をきっかけに、平成14年5月、県下すべての市町村が参加する「いばらき電子自治体連絡会議」を組織しました。発足当初は、IBBNやLGWANの構築、あるいは負担金の検討をしていましたが、その後は、年4回程度の会議を開催し、電子自治体の構築・推進に関する全般的な討議を行っています。また、共同化を進める上では、互いに課題や問題点を出し合って意見交換しながら検討を進めています。

──現在、共同アウトソーシングで提供されている住民サービスについて教えてください。
滑川
 平成15年のIBBNの運用開始に合わせて、「いばらきスポーツ施設予約システム」を、また翌年には「いばらき電子申請・届出サービス」を導入するなど、県民生活の向上につながる行政サービスを展開しています。「いばらきスポーツ施設予約システム」は、県下44市町村のうち26団体でサービスが提供され、176公園の614施設の利用予約ができるようになっています。現在、サービスの利用登録者数は2万1,414人、アクセス件数はサービス開始から累計で92万件に達しています。また、オンラインサービスの利用状況を見ると、利用予約全体の30%超を占めており、なかには全体の80%がインターネットからの予約という市もあります。このケースでは、施設の利用頻度が高いリピーターに対して、インターネットからの利用予約を積極的にPRしているそうで、他の施設でもリピーター層を上手く取り込むことで、オンライン利用率全体の底上げを図ることができるのではないかと考えています。さらに、「いばらき電子申請・届出サービス」については、平成16年5月から運用を開始し、現在は全市町村がサービスを提供しています。利用可能な手続は県が約300手続、市町村では60手続となっています。

簡易申請で実利用に適したサービスへ

──平成19年11月には「TKC行政ASP/かんたん申請・申込システム」を採用され、電子申請サービスを追加・拡充されました。
滑川
 はい。導入のきっかけは、オンライン手続の見直し・拡充を行い、県民の実利用に適したサービスとしてその利用促進を図ろうと考えたことです。例えば、県庁が提供する約300手続のうち、半分は公的個人認証サービスを利用するものですが、なかには県民に十分活用されていない手続もあります。そうした利用促進策の検討を始めた頃、総務省から『電子自治体オンライン利用促進指針』が公表され、住民等の利便性の向上や業務の効率化効果が高いと期待される21の手続が示されました。こうした流れを踏まえ、茨城県としても厳格な本人確認を必要としない、住民にもっと身近で簡易な申請・手続を採り入れ、オンラインサービスの拡充を図ることにしました。すでに県が実施したサービスとしては、「いばらきに関するアンケート調査」があります。これは茨城県のイメージに関するアンケート調査で、この結果をもとに県のイメージアップ策を考えようというものです。平成19年12月から平成20年1月にかけて実施しましたが、利用件数は県民・企業などが567件、また庁内の職員からが1,779件と多くの回答が寄せられました。このほかにも現在、42の申請・手続に利用しています。また、市町村では12団体が運用を開始し、主にアンケート調査などのサービスが提供されています。その他の団体でも4月以降、順次対応する予定です。今後、県としては「自動車税の住所変更」を、また市町村としては「粗大ごみの手続」など、利用者のニーズにかなうサービスを展開していく計画です。

──従来の共同化とは異なり、簡易な申請・手続では、各市町村がASP方式のシステムを活用するスタイルとなりますが、ASP方式を採用した要因は何だったのでしょうか。
皆川
 ASP方式のメリットは、「コスト」と「資産を持たずにシステムの運用が可能である」という点です。例えば、電子申請・届出サービスのシステムを独自開発している場合、これらの調達や更新時期などに合わせて、サービスの提供計画を考えざるをえません。この点、ASP方式であればシステムの導入が容易なことに加えて、利用期間を自由に決められるため、社会環境の変化等に合わせてオンラインサービスを追加する、あるいは停止するなど柔軟に対応できます。また、技術面をはじめシステムの運用管理を民間へ委託できることから、職員の異動に伴う運用ノウハウの引き継ぎ上の問題も少なくなります。加えて、高度なセキュリティを維持した行政専用のネットワークであるLGWANを利用できることから、情報セキュリティ面も確保されます。このため県下市町村においても21団体がLGWAN-ASPを利用するとしています。



目標は空気のような行政サービス

──共同化のメリットとは、どのような点にあるとお考えですか?
滑川
 共同化の最大の狙いは、スケールメリットによるコストダウンだと思います。システムの構築から運用にかかる経費を県内全市町村で負担するため、茨城県でもかなりの“割り勘”効果が出ています。総務省では、共同アウトソーシングを行った場合の経費は、そうでない場合と比較して数分の一に下がると試算していますが、茨城県の場合、それ以上の効果だと思います。そして、もう一つ大きなメリットとしては、県内の住民はいずれの市町村でも、ほぼ均一のサービスを利用できることでしょう。やはり、行政手続のオンライン化をはじめ電子自治体の推進は住民のために行われるものであり、住民が“便利さ”を実感できるものでなければなりません。これを効率的に実現するため、我々としても〈共同化〉〈標準化〉へ取り組んでいるのであり、だからこそASPサービスなどより有効な手段があれば、それも柔軟に採り入れていくことが大切なんだと思います。

──今後のご計画を教えてください。
皆川
 オンライン手続だけで完結できるものについては、紙による申請をなくすなど従来の手続フローの見直しを検討したいと思っています。具体的な検討はこれからですが、手続によっては実現可能なものもありそうです。また、平成22年度を目標年次として、さらにオンラインサービスを増やす予定です。加えて、重点的に推進すべき施策の一つとして「GIS(地理情報システム)」を活用した事業を考えています。これは行政のみならず、県民生活や企業活動をはじめ、多くの分野で効果的な活用ができる「統合型GIS」の整備・運用を市町村と共同で行うものです。例えば、GISを使った災害情報などですね。これについて現在、検討を進めています。また、地方税の電子申告については、県下市町村にとって重要な検討課題でしょう。さらに、施設予約サービスでは文化施設も対象とするなど、今後も県民生活や産業活動の向上・発展につながる“茨城らしい”行政サービスを展開する計画です。重要なことはオンラインサービスが住民生活へ浸透し、当たり前の存在となること。県民や企業にとって、IBBNはいまや身近な存在として生活や経済活動に溶け込んでおり、意識をしなくとも使ってもらえるようになりました。オンラインサービスについても同様で、そういう意味では“空気のような存在”となるよう考えていきたいですね。