電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

寺原

『IT新改革戦略』の目標年次に向け、電子自治体もいよいよ折り返し地点を迎えた。ASP・SaaSなど新たな技術も登場するなか、電子自治体が目指す「行政サービスの高度化」「行政の簡素化・効率化」の推進へ、申請・届出等手続のオンライン化とともにオンライン利用促進にも一層拍車がかかる。今後の展望について、総務省自治行政局地域情報政策室の井上知義室長へ聞く。

──電子自治体の進捗状況について教えてください。
井上
 平成19年4月1日現在の調査を見ると、都道府県、市区町村ともに7割がCIO(情報統括責任者)を任命しており、また、情報セキュリティについては、個人情報保護条例や情報セキュリティポリシーの策定など基本的な枠組みはほぼ全団体が対応を完了するなど、電子自治体に関する取り組みは着実に進展しています。ただ、住民サービスについて見ると、都道府県では46団体が電子申請を実施しているのに対して、住民サービスの中心である市町村は約4割と実施が遅れている状況です。
──市町村における申請・届出等手続のオンライン化が課題ということですね。
井上
 電子自治体の目的である「行政サービスの高度化」と「行政の簡素化・効率化」を実現するには、地方公共団体における申請・届出等手続のオンライン化の推進とともに、利用者によるオンライン手続の利用促進を図ることが不可欠です。総務省では、昨年3月に『新電子自治体推進指針』を策定し、〈2010年度までにオンライン利用率50%以上達成〉へ取り組んでいるところですが、『電子自治体オンライン利用促進指針』で定めたオンライン利用促進対象手続(21手続)の平成18年度における利用率は全体平均で17.5%に止まっています。このうち利用率が高いのは、「文化・スポーツ施設等の利用予約等」(30.1%)と「図書館の図書貸出予約等」(18.2%)で、これらは厳格な本人確認を必要とせず手続も簡易なため利用が進んでいるといえます。こうした“使い勝手”がポイントだということは、昨年実施した住民アンケート『オンライン手続に関するアンケート』の結果にも表れています。調査によれば、オンライン手続を利用しない理由として、「本人確認や事前登録など別途手続が必要」「個人情報の漏えいなどセキュリティに不安」が挙げられています。一方、オンライン手続に期待するメリットとしては、「24時間365日のノンストップサービスの提供」が最も多く86.6%となったほか、「手数料の低減」(60.6%)など経済的メリット、「オンライン利用時の処理時間短縮」(37.6%)など時間的メリットを挙げる割合が高いことが分かりました。

コンビニをサービス拠点に

──オンライン利用促進には、住民など利用者の視点で利便性向上や利用メリットの拡大を図ることが重要ですね。
井上
 そうですね。そこで、昨年10月に学識経験者や地方公共団体関係者、民間企業の代表者などからなる「オンライン利用促進ワーキンググループ」(部会長・須藤修東京大学教授)を立ち上げました。これは「電子自治体の推進に関する懇談会」の下部組織で、昨年度は「地方公共団体における証明書等の電子交付」と「携帯電話を活用した電子申請システムの構築」について検討し、今年3月に報告書をまとめました。まず、電子交付については、現状では電子申請をしても証明書の交付は改めて窓口で行われる場合が多く、その場で手続が完了しないため不便です。ワーキンググループ(WG)の検討の中で行った住民アンケートでも、施設利用許可書等について電子交付等を「利用したい・どちらかといえば利用したい」住民の割合は89.5%に上り、住民票の写し等についても77.0%という回答結果となっています。そこで電子交付を実現することで、オンライン利用のメリットを高めようという試みです。
──なるほど。
井上
 今回のWGの検討結果を踏まえ、来年にはコンビニに設置したキオスク端末を利用して住民票の交付サービスを開始します。実証実験ではなくビジネスベースで実現します。まず先進的な団体でサービスを始めますが、将来的にはすべての自治体において、コンビニや郵便局、大型ショッピングセンターなどで、住民票に限らずさまざまな証明書のワンストップサービスを可能にしたいと考えています。地域によってはコンビニがないところもあるため、特に郵便局の参加に期待しています。さらにこれは法務省との調整などが必要ですが、この仕組みを使って戸籍の附票も電子交付できるようになれば、利用者の利便性は一段と高まるでしょう。
──確かにコンビニは、365日のサービス拠点であり、住民がメリットと感じる点とも重なりますね。携帯電話の活用についてはいかがですか。
井上
 日本は、いまや携帯電話大国です。契約数で1億件を超え、利用率も6歳以上人口の7割に達しています。インターネットのアクセス手法としても、平成17年末時点の調査で携帯電話のインターネット利用がパソコンを上回りました。携帯電話は、より多くの人にとって最も身近な端末であり、誰にでも使いやすいという点でオンライン利用促進の鍵になると考えています。そこでWGでは、携帯電話を活用した電子申請システムを構築するためのマニュアルおよび機能要件を作成しました。
──携帯電話とコンビニ交付を組み合わせたサービスも検討できますね。
井上
 それは十分可能です。電子交付にあたっては、例えば住民票であれば住基カードで本人確認を行う必要がありますが、簡易な手続の場合は住基カードを使わなくても、携帯電話の一定の機能や手続によって対応が可能ですからね。

利用して楽しいサービスの普及へ

──WGでは、今後どのような検討を進める予定なのでしょうか。
井上
 今年度は「オンライン利用へのインセンティブ付与」と「証明書等のペーパーレス化」について検討する計画です。前者については、住民がオンラインの方が窓口よりも便利だと思えるインセンティブ付与の方法を検討します。インセンティブとは、主に(1)手数料の減免やポイント制の導入など「経済的なインセンティブ」、(2)早い・待たない、24時間365日のサービスなど「時間的なインセンティブ」──ですね。実際、金融機関でもATMの方が便利で手数料も安いでしょう? 金融機関としてもATMを利用してもらうことで、人件費削減や業務の効率化につながるため、インセンティブを付けているわけです。これは行政でも同じことがいえます。行政事務の効率化を図り、その分手数料などを引き下げれば、住民サービスの向上という意味でも非常に大きい効果があると思います。
──ポイント制の導入というのも、面白い視点ですね。
井上
 まだアイデアベースですが、民間事業者では継続的な顧客への付加サービスとして、マイレージサービスなど各種ポイント・サービスを展開しており、これらと連携することが考えられるでしょう。ほかにも、例えば利用に応じて温泉券をプレゼントするなど地域独自のインセンティブ付与がありますね。そうした“利用して楽しめる”ということも一つの住民サービスだと思います。また、「証明書等のペーパーレス化」については、現状では証明書の電子交付を受けても第三者へ送付できないなどの課題があることから、ペーパーレス化実現に向けた課題整理とその解決策などの検討を行うものです。
──それは重要ですね。当社では、会計事務所と地方公共団体へ向けて税務と会計分野に特化した情報サービスを展開してきた企業特性を活かして、社会の要請に応え、より高次な社会インフラの整備へ貢献すべく、国税・地方税の電子申告の普及推進へ取り組んでいます。電子申告の利用件数はこの1年で急激に伸びていますが、背景には昨年1月に「第三者作成書類の添付省略」と「電子署名等の一部省略」が可能になったことがあると思います。
井上
 そうですね。交付のペーパーレス化が進めば、自ずと添付書類の削減も進むと思います。それとともに重要なのが、手続を受ける側にペーパーレスを容認してもらうことでしょう。例えば、金融機関は住民票の最大の二次ユーザーといえますが、ここが紙ベースでの提出を求めれば交付のペーパーレス化を推進してもまったく意味がありません。そうした第三者の受け入れ側の体制整備も視野に入れながら検討を進めます。なお、これらの検討成果については、今年中をめどに取りまとめる予定です。

ASP・SaaSの利用拡大へ

──申請・届出等手続のオンライン化という点では、ASPやSaaSといった新たなサービス形態が登場し、これらを活用しようという動きも出てきていますが、どうご覧になっていますか。
井上
 そうした動きは今後どんどん加速していくでしょうね。特にASP・SaaSは電子申請サービスとも馴染みますし、小規模な自治体も含めて電子自治体をさらに推進するため、我々としても利用促進へ取り組む考えです。そして、その基盤として重要となるのがLGWANです。すべての自治体が接続されている基盤はほかにはなく、この利用価値をいま以上に高めたいと考えています。そのための手立ての一つが、LGWAN─ASPの普及促進です。TKCでは他社に先駆けてサービス展開されていますが、より多くの事業者へLGWAN─ASPへの登録を促進します。また、今年4月には財団法人マルチメディア振興センターによる「ASP・SaaS安全・信頼性に係る情報開示認定制度」も開始されており、この認定事業者について地方公共団体へ周知徹底を図ることも考えられるでしょう。さらには年度内をめどにASP・SaaS活用ガイドラインをまとめる計画です。こうした取り組みによって、ASP・SaaSの利用を促進していきたいと考えています。


──これまで大規模な自治体を中心に進んできた電子自治体も、いよいよ小規模な自治体へ普及する局面を迎えたということですね。
井上
 おっしゃる通りですね。ただ、小規模の自治体への普及が進むにつれて人材面、財政面の問題が一層顕在化します。そのためには、地域情報プラットフォームに基づく標準システムの導入、あるいは共同化やASP・SaaSサービスを利用したアウトソーシングの促進などの必要性が今後ますます高まるだろうと考えています。また、これとともに重要なのが情報セキュリティに関する総合的な対策です。例えば、個人情報漏えいが発生した時にどう対応するのか、発生を防ぐためにどうすべきかなどを整理することが必要でしょう。さらに先般、岩手・宮城内陸地震が発生しましたが、情報システムに関する事業継続計画(BCP)の策定なども欠かせません。これについては、「電子自治体の推進に関する懇談会」の下部組織である「セキュリティワーキンググループ」(部会長・大山永昭東京工業大学教授)において、6月10日に『地方公共団体におけるICT部門の業務継続計画(BCP)策定に関するガイドライン』を取りまとめていただきましたので、今後その普及を図ります。先進的な自治体にはこれからもどんどんリードしてもらう必要がありますが、電子自治体の裾野を広げるための取り組みが今後一層重要となります。1800団体すべてをどうやって電子自治体化していくか、いまの私にとって大きな課題です。我々も全力で支援しますが、地方公共団体においても、電子自治体の普及加速に向けて他団体や地域、民間と連携した積極的な取り組みを期待しています。