電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【特集】

『2008年版情報通信白書』は、市区町村におけるICTの活用状況について調査分析を行った。調査結果を見ると、全体としては中小規模団体の情報化進展の遅れが目立つ。
一方で、限られた予算でも、ICTを効果的に活用して、住民サービスや業務効率化で成果を上げる市区町村は着実に増えている。事例から行政の経営改革“成功の秘訣”を探る。

 総務省は、平成19年3月に『新電子自治体推進指針』を策定し、「2010年度までに利便・効率・活力を実現できる電子自治体」実現に向けた取り組みを促進している。
 その推進状況や今後の展望については、小誌7月号の井上知義・自治行政局地域情報政策室室長のインタビュー記事に詳しい。ここで述べられたのは、これまで大規模団体を中心に進んできた電子自治体も、いよいよ小規模団体へ普及する局面を迎えたということだ。
 電子政府・電子自治体を推進する目的とは、「住民の利便性を向上させること」と「行政事務を効率化すること」だ。住民サービスへICTを有効活用することで、待ち時間が短縮され、夜間でも手続きができるようになれば、住民の利便性向上に大きく貢献する。
 一方、行政にとっても人口減少時代の到来や少子高齢化、財政逼迫という深刻な経営課題を抱えるなかで、ICTの活用によって業務の効率化を図り、その分、新たな行政サービスの企画・提供などへマンパワーを集中させることが必要だ。いわゆる「選択と集中」である。その意味では、電子自治体の実現とはICTの活用によって、これまでの“行政運営”から“行政経営”へと大きく舵を切る「改革」への取り組みなのである。
 しかしながら、現状としては電子社会へ向けたインフラは着実に整備されつつあるが、行政の経営改革への取り組みは、まだまだ道半ばという状態である。

団体規模や予算割合は無関係

 さて、市区町村におけるICT活用の現状がどうなっているのか、総務省の『情報通信白書』で見てみたい(図表)。
 2008年版では、全国の市区町村を対象に、ICTの活用状況、活用による効果、取り組み体制などに関する調査・分析を行っている。分析にあたっては、自治体の行政分野を(1)防犯・防災、(2)福祉・保健、(3)医療、(4)教育・文化、(5)産業・農業、(6)交通・観光、(7)行政サービス、(8)住民交流──の8つに分け、分野ごとにシステムの機能や導入時期などに応じて得点化し、「ICT総合活用指標」として全体的な活用状況を示したという。
 なお、『情報通信白書』は、総務省情報通信統計データベースのサイトからダウンロードできるので、詳細はそちらをご覧いただきたい。
 分析結果(図1)を見ると、総体的には550満点中、最高点が430点、平均点は80.4点で、非常に先進的な取り組みを行う自治体がある一方で、多くの市区町村で未だICT活用が進んでいない状況が明らかとなった。
 これを都市区分別(図2)に見ると、平均点が最も高いのが「政令市・特別区」で、次いで「中核市・特例市」、「それ以外の市」、「町村」となり、規模の大きな自治体ほど平均点が高くなっている。
 しかし、最高点に着目すると、「政令市・特別区」よりも「それ以外の市」の最高点の方が高い。特に、ベスト10団体(図3)のなかに、北海道長沼町(人口約1万3000人)が含まれているのは驚く。こうして見ると、先進的な取り組みを行っている自治体が、必ずしも大規模団体とは限らないことが分かる。


 さらに、自治体の属性ごとに行政分野別の活用状況を見ると、「高齢化や過疎化が進む市区町村」と「そうではない市区町村」の比較では、医療や福祉・保健といった分野ではあまり差がないが、行政サービス、教育・文化等の分野ではその差が大きくなっている。
 そして、もう一つ興味深いのが、「情報化関連予算割合」との関係性だ。
 調査結果からいえるのは、予算割合の大小と情報化の進展度にはあまり関連性がないこと。つまり、予算を増やしてもICTの活用が進むわけではなく、重要なのは「いかにして予算を効率的・効果的に使うか」だ。また、限られた予算で高い効果を上げるためには、推進体制の整備が欠かせないが、今回の調査結果からもCIO(情報統括責任者)の設置など専門部署のある市区町村の方が、得点も高い傾向にあるという結果が出ている。ちなみに、推進体制についても情報化関連予算割合との関係性が見られない。
 こうしたことから白書では、「予算が少なくても、推進体制を整備し、限られた予算を効率的に使うことができれば、ICTの活用を進めることができることを示すものであるといえる」と結論づけている。

ほかの自治体の成功例に学ぶ

 実際に、限られた予算でも、共同化やSaaS・ASPなどを上手く活用することで、新たな住民サービスや業務改革で成果を上げる市区町村は着実に増えている。そうした優れた取り組み例は、他団体にとっても参考となるだろう。
「住民サービス」でのICTの活用例は数多く、その筆頭といえるのが、厳格な本人確認を必要とせずに利用できる“かんたん”な電子申請の例だろう。当社の「TKC行政ASP/かんたん申請・申込システム」の利用例から、どんなオンラインサービスが提供されているのか見てみたい。
 窓口連携システムの活用による申請業務の効率化などにより、昨年度、財団法人地方自治情報センターの「電子自治体ベストプラクティス」事例にも取り上げられた埼玉県北本市。ここでは、平成19年より、市が主催するイベントや催し物の申し込みを受け付けるオンラインサービスを開始した。従来は電話や窓口で申し込む必要があったが、オンラインサービスの提供で利用者はいつでもどこからでも、24時間申し込みが可能となった。住民からの反応も上々で、昨年開催した「きたもと爆笑サプリライブ2007」には申し込み総数1395件のうち、120件がオンライン利用だったという。


 このほかにも「ボランティア募集」や「料理教室の申し込み」「粗大ゴミ回収申し込み」などのサービスを提供する団体は少なくない。また、こうした簡易な電子申請の仕組みを「住民アンケート」や「意見募集」など住民と行政との協働を進めるための手段として活用する例も増えてきた。
 さらに、オンラインサービスを治安の面で活かそうという試みもある。その例が、岩手県奥州市が平成18年12月に実施した「登下校通知システム」の実証実験だ。これは児童が登下校時に端末へIDを入力し、住基カードと手のひら静脈認証で本人確認を行うと、保護者へメールが送られるもの。確実な本人確認を行うためTKCの「電子申請・届出システム」を採用した。奥州市では、以前から「不審者情報」のメール配信を実施しているが、“人”による巡回・警備とこうした仕組みを併用することで「犯罪の抑止効果が期待される」としている。
 さて、本号では前号に引き続き、こうした市区町村のなかでも特徴的な「電子自治体ベストプラクティス」を紹介する。
 事例1は、和歌山県海南市のケースだ。海南市は、合併を機に旧来のレガシーシステムを見直すなど、これまでにも積極的な経営改革に取り組んできた。そうした取り組みの一環として、平成19年10月より「公共施設・案内予約サービス」を開始し、10か月間で住民からのアクセス件数は2万6000件を超えるなど、住民サービスの向上で着実に成果を上げている。また、システムに合わせて実務を見直したことで、「業務の標準化」も進んだそうだ。そして「もう一つ大きな効果は、利用者の動向や意識変化などを把握できるようになったこと」と語る。ICT活用を、単に予約受付業務の電算化だけではなく、市民視点でサービスの質的改善や新たなサービス創出へとつなげていこうとする典型的な事例である。
 事例2では、宮城県大崎市の税のコンビニ収納サービスを取り上げた。総務省の調査によれば、コンビニ収納を実施している市区町村は平成19年9月時点で167団体とまだ1割に満たない。だが、大崎市では、金融機関の統廃合といった生活環境の変化に対応し、新たな収納チャンネルとして「コンビニ収納」の採用に踏み切った。平成20年度からは市県民税や固定資産税なども追加し、5税目合計で今年度3万2000件の利用を超えている。業務の効率化も実現し、「3万2000枚の納付書を読み込む手間を金額換算すれば相当な額となり、コンビニ収納にかかる手数料は決して高くない」という。収納率増を即“コンビニ収納効果”というのは早計だが、今後、利用実態をより詳細に把握し、収納率向上の対策を考えていくとしている。

成功は偶然ではない

 工夫を凝らして電子自治体構築を進める市区町村の取り組みは、ぜひとも参考にしたいが、残念ながら形だけ真似ても成果にはつながらない。
 海南市と大崎市に共通するのは、「市民視点」で業務の流れを変更し、継続的にサービスの創造や質的改善を追求しているということだ。決してやみくもにサービスを“付け足して”いるわけではない。
 いずれのケースも、現在のサービス内容や業務プロセスを的確に把握し、問題があれば、その原因が手段にあるのか、仕組みにあるのかを考え改善を図っている。そして、両市ともに見直すとなれば仕事のやり方を大改革することも辞さない大胆さと、サービスが動き出した後も住民の動向を見ながら臨機応変に内容を修正する柔軟さを併せ持っている。
 ここに行政の経営改革の「成功の秘訣」がありそうだ。
 人口規模、あるいは大都市圏と地方都市など、市区町村が置かれている状況はさまざまである。住民ニーズも違うため、それぞれが抱える課題やその対応策が異なるのも当然のことだろう。総合的にICTを整備するか、特定分野で集中的にICTを活用するか、それは地域の実態に合わせて考えればいい。だが、いずれの市区町村においても、「ICTを活用した経営改革」が、行政にとって生き残りの絶対要件であることに変わりはない。

 和歌山県田辺市と秋田県秋田市が、地方税の電子申告の受付サービスを開始して、8か月が経過した。その後、電子申告の利用状況はどうなっているのか、追加取材を試みた。
 1~7月末までの法人市民税の申告件数を見ると、田辺市の総申告件数は1,687件で、このうち電子申告は264件(15.6%)になる。一方、秋田市は7,559件の申告のうち、1,015件(13.4%)が電子申告された。特に、田辺市の場合、4月には電子申告利用が全体の19.5%に達し、5件に1件が電子申告という結果となった。
 この数字を多いと見るか、少ないと見るかは判断が分かれるところだが、電子申告の利用ニーズが一過性のものではないことだけは確かだ。


 トレンドビューのページにおいて中堅大企業の“生の声”を紹介しているが、納税者側にとっては地方税の電子申告を利用したくても利用できない状況にある。
 両市の担当者も、「対応する市区町村が増えるほどシナジー効果で納税者・行政ともにメリットが高まる。みんなで底上げを図っていく努力が必要」(田辺市/本誌5月号)、「すべての市区町村でエルタックスが使えることが理想。市区町村での一層の努力が望まれる」(秋田市/本誌3月号)と語る。全国の市区町村での早期開始が利用率アップのカギとなりそうだ。