電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【トレンドビュー】

このほど、「法人税電子申告システム(ASP1000R)」を利用する中堅大企業16社に対して、事例取材を行った。なかで印象深かったのが、「地方税の電子申告」への期待の高まりだ。背景には、「内部統制」など一連の業務改革に対応するため、税務業務全般の電子化が進んだことが挙げられる。そこで、取材で聞かれた担当者の“生の声”を紹介する。

 「ASP1000R」は、年間約四九万社の申告に利用される「法人決算申告システム(TPS1000)」と、TKC会員が国税・地方税の電子申告に利用する「TKC電子申告システム(e─TAX1000)」のノウハウを活かして、中堅大企業向けにTKCが開発したシステム。法人税や地方税などの申告書作成から電子申告まで“一気通貫”で支援するものだ。
 平成19年1月に提供を開始し、現在、330社を超える企業で利用されている。そうした利用企業に対するインタビューは、昨年に続き今回が2回目となった。

電子申告へ期待高まる理由
 図1は事例各社へのインタビューから、税務業務を取り巻く課題点を整理したもの。1年前と比べ、課題に大きな変化は見られない。だが明らかに違うのが、税務業務に「スピード」と「正確性」が強く求められるようになったことだ。その背景には、「四半期開示・決算早期化」「内部統制」への対応がある。


 実際、「これまで簡便な計算で済んでいた四半期決算も細かく報告が求められ、税額計算の精度向上が必要となった」(大同テクニカ)と、決算で計上した税額と申告税額の乖離が許容されなくなった状況に苦慮する担当者の姿が浮き彫りとなった。
 中堅大企業の場合、未だ多くの企業が法人税・地方税計算と申告書作成の過程で「スプレッドシート(表計算ソフトで用いられる行と列で構成される表のこと)」を使っている。だが、スピードと正確性の両立には、もはやスプレッドシート利用は限界で、申告書作成から申告まで一気に処理できるシステムの活用が必須となっているのである。
 また、実務面で多くの企業が課題点としているのが、「地方税の申告に伴う作業の煩雑さ」だ。
 特に、中堅大企業の場合、全国規模で事業展開するところが多く、今回取材した企業のなかにも申告先が300を超えるところが数社あった。
 このため、取材でも「各市区町村の税率等を確認するだけで1~2日かかり、均等割や分割基準計算のチェックまで含めると1~2週間かかる」(大和ハウス工業)、「納付書がすべて届いたことの確認に始まり、税率を確認し、納付書に手書きして読み合わせ、間違えたら再度納付書を取り寄せて…と業務全般をいかに効率化するかが課題だった」(新日本石油)という声が聞かれた。
 こうした外的・内的の要因が相俟って、「地方税の電子申告」への期待感が急速に高まっているわけだ。
 特に業務効率を考えれば、「地方税の電子申告こそ早く実施したい」(ジーエス・ユアサ コーポレーション)のが本音。担当者たちは「対応団体が増えれば、発送作業や送り先のチェックなどの準備作業がなくなる」(カシオ計算機)、「電子申告になれば、作業は従来の4分の1程度に軽減する」(大庄)と語っている。
 さらに「郵送にかかるコストを節約できる」(びわこ銀行)というように、地方税申告には意外と多くの費用がかかっているのも事実。どの程度の額なのか、〈申告先が300か所、業務日数4~5日〉で試算すると、年間費用は次のようになる。
●郵送代・印刷代 20~30万円
●人件費 10~15万円/1人当たり
 電子申告が可能になれば、単純に見積もっても50万円程度のコストを削減できる。国税庁によれば、平成19年6月末現在の法人数は約300万5000社で、このうち資本金1億円以上の中堅大企業は約3万4000社。つまり、地方税の電子申告で、全法人数の1%程度に過ぎない中堅大企業だけで170億円もの便益が生じるのである。

電子申告は時代の流れ
 国税の電子申告は平成16年2月の開始以来、順調に利用率を伸ばし、19年度のオンライン利用率は16.83%と前年度の2.89%から大幅に増加。法人税申告件数も51万626件と、これも前年度(10万857件)の5倍となった。
 こうした状況に対応して、「17年7月から、電子申告をしたお客様から電子納税証明書を受け入れる体制を整え、電子納税サービスを開始した」(しずおか信用金庫)というなど、中堅大企業の多くが「電子申告は時代の流れ」と認識している。


 だが、現実では大規模な法人ほど電子申告の利用割合が低下する(図2)。中堅大企業にとっては、地方税の電子申告が実現されない限り電子申告をするインセンティブは低いということなのであろう。
 この点、今回取材した16社は電子申告に対する意識も高く、すでに13社が実施していた。だが、このうち「都道府県への申告のみ実施」という企業も含めて、地方税を電子申告したのはわずか7社。中堅大企業にとっては、使いたくても市区町村の足並みが揃っていないために、「紙による申告と電子申告が混在すると、作業が繁雑となり、間違いが起こりそうで、現状では見送らざるを得ない」のが実情なのである。

 さて9月22日より、埼玉県三芳町が町村としては全国で初めて電子申告のサービスをスタートする。また、8月15日現在の仮申し込みでは200を超える市区町村が12月からのサービス開始を表明するなど、法人納税者にとってもようやく明るい兆しが見えてきた。しかし、まだ多くの市区町村は電子申告に対する意識が低いといわざるをえない。
 地方税の電子化は、中長期にわたるインフラ整備の一環である。ましてや電子申告は一度始めれば継続して利用されるものだ。費用対効果を指摘する市区町村の声があるのも事実。だが、地方税の電子申告は納税者が利用したいと思っても、市区町村が導入しない限り使うことはできない。「使いたいけれど使えない」という納税者の声を、皆さんはどう受け止めるのだろうか。