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 地方公会計制度改革の目的の一つである「資産・債務改革」。このため、市町村には「資産・債務の実態把握及び管理」に向けて、固定資産台帳の整備が求められている。そこで、日本公認会計士協会・公会計監査特別委員会委員であり、東京都などの包括外部監査補助者の経験を持つ公認会計士・税理士の中村元彦氏に、資産整備のポイントと財務書類作成の意義について聞いた。

 総務省が公表した『地方公共団体の平成19年度版財務書類の作成状況等』を見ると、平成20年度決算に係る財務書類を「作成予定」とする市区町村(指定都市除く)のうち、84.3%が「総務省方式改訂モデル(以下改訂モデル)」で作成すると回答している。「基準モデル」(6.9%)と比べると、一部積極的な団体以外は「まずは改訂モデルで」という流れが強いといえるだろう。また、「作成予定なし」が140団体あるとはいえ、9割超の市区町村が地方公会計改革へ取り組みつつあることは間違いない。
 さらに、総務省では小規模団体においても財務書類の整備が円滑に進むよう、『新地方公会計モデルにおける資産評価実務手引』『新地方公会計モデルにおける連結財務書類作成実務手引』などを公表しているが、中村氏は「全体的に固定資産整備の遅れが目立つ」と指摘する。
 「資産・債務改革」の狙いは、不要な資産を売却して負債を圧縮することだ。そのためには、資産の金額をできるだけ正確に把握する必要があり、従来の公有資産台帳とは別に「固定資産台帳」を整備することが有効となる。また、事業別や施設別などの観点で分析することにより、官民のコスト比較(アウトソーシングや指定管理者制度の検討など)も可能となるが、この場合も固定資産台帳の整備が不可欠だ。
 「改訂モデルの場合、台帳を整備しなくても財務書類を作成できるが、台帳を整備しなくてもいいというわけではない。住民へ説明責任を果たすためにも、改訂モデルでもきちんと売却可能資産を把握して、段階的に財務書類の整備を進めることが望ましい」(中村氏)のである。

資産整備の三つの留意点

 中村氏は、資産整備のポイントとして次の三点を挙げる(表)。
 一つ目が「現状把握」だ。そもそも、公有資産台帳には地方自治法等により資産の数量や金額を記録することが求められていたが、実際には記載漏れも多く、金額まで管理していないケースも散見される。なかには売却や除却を反映していないところもあり、最初にきちんと資産の棚卸しをしておかないと後から苦労することになる。

 二点目の「ルール・プロセス」は、要は住民へきちんと説明できるようにするということだ。資産整備は全庁的な取り組みであり、売却可能資産についても、組織横断の委員会やワーキンググループで検討するといいだろう。この時に重要なのが、売却可能資産の選定・評価の基準を定め、それに基づき委員会等の検討・承認によって作業を進めることだ。これにより、意思決定プロセスの透明性を担保することが可能となる。
 三点目の「目的・活用方法」は、資産整備の上で最も重要なポイントであろう。何のために資産整備を行うのかといえば、行政運営の健全化を図るためだ。また、資産整備の成果は、先述した官民のコスト比較などに活用できる。
 しかも、台帳は一度整備したら終わりではなく、次年度以降も異動等の管理を継続して行う必要があるが、そのためには整備後の適切な管理・運営の方法やルール、役割分担などを決めておかなければならない。
 なお、台帳の整備・管理にはこれを支援する情報システムが欠かせないだろう。その選定においてはコスト面ばかりでなく、本来の目的や成果の有効活用に役立つかどうかという視点からの検討も忘れてはならない。「せっかくコストをかけるのであれば、会計データを首長の意思決定や事業活動の評価、最終的には予算編成へ活用できる仕組み作りを目指すべき」(中村氏)なのだ。
 基準モデルの場合、開始貸借対照表の作成のため、すべての固定資産を網羅しなければならず、資産台帳整備も短期集中となりコストやマンパワーなど一時的な負荷も高くなる。一方、改訂モデルはその負荷を分散できる分、固定資産に関する検証可能性が低いというデメリットもある。

 どちらを選ぶかは、結局、それぞれの市区町村が何を目的として資産整備を行うか、あるいは資産管理の状況、整備の優先順位によるといえよう。ただ、基準モデルにしろ、総務省方式改訂モデルにしろ、最終的にはすべての資産を公正価値で評価することを目指すのは同じ。いずれであれ、ゴールに至る道筋をしっかり見定めておかなければならない。

何のための公会計改革か?

 さて、会計のプロは地方公会計制度改革の取り組みをどう見ているのだろうか。これについて中村氏は、「何のために公会計改革へ取り組むのかを考えないまま、財務書類の作成が目的化していないか」と現状を危惧する。
 公会計改革の本来の目的は、結果を分析し、費用対効果の視点から事業の見直し、コスト削減・収入増の手立てを考え、具体的な政策や事業計画へ反映させることだ。財務書類の作成だけで終わることなく、その有効活用を考える必要がある。
 その点で参考となるのが、静岡県浜松市と東京都の取り組みであろう。
 浜松市では、浜松市公会計改革にかかるアクション・プランを作成するなかで、例えば回収不能見込額(税の徴収不能額等の見込)の開示に対して『市税滞納削減アクションプラン』を策定し、公表している。
 また、東京都では、例えば「都の施策と連携した多様な財産貸与の推進」として、利用見込みのない資産の売却を進める一方で、将来的に利用可能性のある資産を「緑化条件付の定期借地契約」として民間へ貸し出すことで、緑化推進と中長期的な収入確保の二重の効果を狙っている。その説明根拠に、発生主義に基づく会計データを活用していることはいうまでもない。

 この2団体の取り組みは、まさに財務書類の有効な活用事例といえるが、これが可能なのも資産整備を行い資産と債務を明確に把握していればこそであろう。
 地方公会計制度改革は、単に公会計に「発生主義・複式簿記」を導入するだけでなく、行政運営の効率化・活性化を図るチャンスでもある。悩んでいても始まらない。まずは資産の洗い出しから、一つずつ積み重ねていくことが重要なのである。

 なお、TKCでは固定資産整備に取り組む市町村を応援すべく、「固定資産整備支援ツール」の無償提供を行っている。ぜひ、これらも活用して、地方公会計制度改革へ一歩踏み出していただきたい。