電子自治体推進を支援する情報誌「 新風」

【トレンドビュー】

タイトル

 今号の特集で「自治体クラウド」を取り上げたが、わが国では昨年あたりから「クラウド」がブームとなっている。IT戦略本部が3月に公表した『新たな情報通信技術戦略の骨子(案)』でも、電子行政の実現や競争力強化のためにクラウドコンピューティング等を有効活用すると明言した。背景には、景気低迷により官民を問わず「情報化コスト削減」が喫緊の課題となったことに加え、経済のグローバル化や超高齢化社会の到来といった「社会環境の変化」がある。クラウドによって、これから地方公共団体の業務や情報システムがどう変わるのか考える。

 いまや、新聞紙面でこの言葉を目にしない日がないほど、社会一般に浸透した「クラウド」。試しにインターネットで検索してみたところ、日本語のサイトだけでも1,360万件以上が表示された。まさに“猫も杓子も”の状態といえるが、実際のところ「まさに“雲(クラウド/cloud)”を掴むような話で、何だかよく分からない」と感じている読者も多いのではないだろうか。
 そもそも、クラウドとは何なのか。
 実は、現時点では明確な定義はなく、立場によっていろいろな解釈や言葉の使い方がなされているのが現状だ。一般には、〈ASP/SaaS技術、仮想化技術、グリッドコンピューティングなどを用いて構築された情報システムを、利用者が対価を払って、インターネット等を通じてサービスを利用する形態〉と理解されることが多い。
 また、その形態としては、「パブリック・クラウド」「プライベート・クラウド」の二つに分類される。前者は、不特定多数の一般利用者を対象にインターネット経由で各種サービスを提供するもので、グーグルやアマゾンなどが有名だ。これに対して後者は、一つの企業内などサービスの利用者が限定されたものを指す。現在、総務省が開発実証事業を進めている「自治体クラウド」も、このプライベート・クラウドの形態に含まれる。なお、最近では両者を組み合わせたサービスを「ハイブリッド・クラウド」と呼ぶこともある。

古くて新しいクラウドの考え方

 このように新しい言葉が次々誕生するクラウドだが、「ネットワークを経由して、外部のコンピュータの機能を利用する」という基本的な考え方自体は決して革新的なものではなく、すでに40年ほど前からあったものだ。実際に当時、コンピュータを自己導入していない市町村では、外部のコンピュータセンターに設置されたホストコンピュータと庁内の端末を結んだ「オンライン処理」を行うのが主流だったのである。
 例えば、TKC(1966年、栃木県計算センターとして創業)では、コンピュータセンターの特長を活かし、1979年より地方公共団体向けに「分散処理方式」という独自のアウトソーシングサービスを展開してきた。これは、住民票の発行などの窓口業務は庁内に設置したTASKシステムで行い、課税計算や納税通知書の印刷など大量一括処理の伴うものはTKCの大型コンピュータで処理する――というものである。いまから40年前、窓口で更新されたデータは、その日のうちに回線を通じてTKCの大型コンピュータへ送信され、データの二重保管が行われていたのである。つまり、現代のデータセンターによるサービスの原型が、ここにあったわけだ。

 「ネットワークを経由して、外部のコンピュータの機能を利用する」という観点から歴史を振り返ってみると、1970年代に「VAN(付加価値通信網)」が登場し、データ通信やデータベースサービスなど情報処理機能の商業サービスが提供されるようになり、その後、80年代になるとパソコンが登場し、電子メールの送受信や電子掲示板、チャットなどが行える「パソコン通信」が一般社会へ普及した。
 そして、90年代後半にはインターネットが爆発的に拡大し、いまや日本の利用者は、9,408万人(人口普及率78.0%/総務省『平成21年通信利用動向調査』)に達するまでとなったのはご承知の通り。このインターネットによって登場したのがASPサービスであり、現在のクラウドブームへとつながっているのである。その意味では、クラウドもまた一つの通過点に過ぎないといえるのかもしれない。
 地方公共団体においても、こうした時代環境の変化に合わせて2001年に、都道府県と政令指定都市が接続して「総合行政ネットワーク(LGWAN)」の運用を開始した。その後、順次拡大され、2004年3月までにすべての市町村が接続した。
 そして、団体間の情報格差を解消し、アプリケーションを共同利用することでコスト削減を図ることを目的として、2004年に財団法人地方自治情報センターが「LGWAN―ASPサービス」をスタートした。ちなみにTKCは、民間事業者初の「アプリケーション及びコンテンツサービス」提供者として、サービス開始当初から参加し、現在、九種類のLGWAN―ASPサービスを提供している。いま、当社のサービスは延べ1,000団体を超えて利用されており、ここからも市町村へASPサービスが急速に普及したことが分かっていただけるだろう。
 このように、新しい情報通信技術がどんどん進化するなかで、「自治体クラウド」という言葉が注目されるようになったのである。

必要な時に必要なだけ

 いま多くの市町村が、自ら庁内でコンピュータ(パソコンやサーバ)やソフトウェア、データなどを保有・管理している。
 だが、自治体クラウドの場合、LGWANに接続できる環境さえ用意すればいい。アプリケーションやサーバは、サービスを提供する事業者のデータセンターにあり、市町村は利用料を払って、ネットワーク経由で“必要な時に、必要なものを”利用することができるようになる。そのため、システム機器やアプリケーションの導入・運用・管理にかかるコストや手間が不要になる――これがクラウド利用最大のメリットだ。
 これについて、総務省自治行政局地域情報政策室の高地圭輔室長も自治体クラウドへ期待する点として、「共同利用の割勘効果によるコスト削減」と「業務プロセス改革」の二つを挙げている(特集参照)。
 電子自治体推進により、市町村のICTの活用領域が格段に拡がった一方で、情報システムの開発や維持管理にかかる情報化コストは増加の一途を辿ってきた。加えて、個人情報保護や自然災害等の業務継続性など、行政の情報システムに求められる情報セキュリティ対策は、より高度化しており、昨今の厳しい財政事情とも相俟って、地方公共団体の負担は一層重さを増している。
 特に、財政規模の小さい市町村にとっては深刻だ。「そうした団体では、人材面でもITの専門知識を有する職員の育成・確保も困難な状況にある。だが、自治体クラウドはハードやソフトを自分で持つ必要がなく、運用管理にかかるコスト・業務負担の軽減が期待できることから、中小規模団体にとって問題解決の“切り札”となる」と高地室長は語る。
 また、複数団体がシステムを共同利用するためには、当然のことながら個々に異なっている業務プロセスの標準化が大前提となる。

 そもそも、〈国民本位の電子行政の実現〉という電子自治体の目的を考えれば、財政難だからといってICT整備を軽視していい理由にはならない。この隘路を克服するためには、コスト削減と業務プロセス改革によって、シンプルな電子行政を目指すことが不可避なのである。これは自治体クラウドを導入する・しないに関わらず、すべての市町村に共通するテーマではなかろうか。
 本来、市町村の業務の多くは法制度に則って処理されているものであり、アウトプット形式の違いはあるにせよ、団体規模を問わず、どこでも同じような事務処理が行われるため、業務やシステムの標準化に取り組みやすいのではないだろうか。この「業務・システムの標準化・効率化」については、新ICT戦略の骨子案でも具体的な取り組み例の一つに挙げられているが、現実には六〇年代から全国各地でシステムの標準化が研究されるなど、市町村にとって古くて新しいテーマなのである。
 これについて、巻頭言にご登場いただいた昭島市総務部情報通信課の佐々木啓雄課長も、「ICTとは政策達成の手段であり、その活用においては現行形式にとらわれず、業務とシステムの双方で継続的な改善を行い、さらなる効率化・コストの適正化を図ることが重要」と断言する。
 昭島市では、電算化へ取り組んだ当初からパッケージシステムを利用し、極力システムへ業務を合わせるよう努めてきたそうだ。その結果、「業務プロセスも簡素化されてきた」(佐々木課長)という。
 この昭島市の取り組みは、まさに業務プロセスの改革である。その上で、電子申告やGISなどのASPサービスを柔軟に取り入れ、業務の効率化や住民サービス向上に役立てているわけだ。ここに今後の情報システムのあり方のヒントがあるのではないだろうか。

クラウド時代へどう対処するか

 ところで、『平成21年通信利用動向調査』によれば、ASP/SaaSサービスを利用する企業の割合は20.0%(対前年比4.5ポイント増)となり、そのうち78.5%が「利用の効果があった」と回答している。ちなみに、「効果がある」と回答した企業割合は、19年調査では67.5%、20年調査では73.9%と、着実に増加していることが分かる。
 このように、クラウドの世界は確実に世の中へ浸透しており、今後、市町村においても業務の標準化とコスト削減を実現する「自治体クラウド」への関心が急速に高まっていくことはほぼ間違いない。
 最近では、新たなビジネスチャンスを見出すべく、ITベンダーをはじめ多くの事業者がクラウドを前面に打ち出したサービスを展開し始めている。そのなかから、いままでにない新たなサービスが登場するかもしれないし、多種多様なサービスが出揃うことは市町村にとっても大いに喜ばしいことだ。そのためにも、市町村は自ら最適なものを選択できる“眼”を養うことが肝要だ。
 では、市町村ではクラウドをどう活用していくべきなのだろうか。
 総務省では、平成23年度末までをめどに「自治体クラウド」の開発実証事業の成果をまとめるとしている。とはいえ、地方公共団体にとって情報化コストの圧縮は喫緊の課題であり、実証事業の成果公表を待つことなく、クラウドを活用する市町村が増えると推察される。
 その場合、すべてのシステムを一気にクラウドへ切り替えるのは、あまり現実的ではない。やはり、それぞれの市町村の状況に合わせて、段階的に取り組んでいくのが賢明な選択といえるだろう。
 その意味では、まず、いま利用できるサービスがあれば柔軟に採り入れていくことが肝要といえる。LGWAN―ASPの活用やハウジングサービスの活用などが、その代表例であろうか。また、シンクライアントや仮想化などの技術を、庁内システムへ採り入れることも考えられるのではないか。

 ただ、ここで留意すべきは、クラウドにすれば単純に大幅なコスト削減ができるわけではない、ということだ。例えば、基幹系システムをクラウドで利用する場合、業務の継続性の観点からネットワークの二重化なども考えられ、その場合は新たな情報化投資が必要となるだろう。また、市町村独自のシステムとしてカスタマイズを行えば、その分のコストがかかるのは従来と同じだ。
 さらに、情報システムにかかるコストを圧縮するには、「組織的な業務プロセス改革」の検討が大前提であり、並行して「業務継続性も含めた情報セキュリティ対策の観点からデータ管理の仕方を見直す」ことも忘れてはならない。

 さて、TKCでもクラウド時代を見据え、LGWAN―ASPサービスで培った実績とノウハウをベースに、TKCインターネット・サービスセンターを拠点としたサービスの強化拡充を計画している。具体的には、「フロントサービス」「バックオフィスサービス」「アウトソーシングサービス」の統合化を図る方針だ。
 当社では創業以来、「住民福祉の向上と行政効率の向上」の支援を事業活動の基盤に据えており、だからこそ他社に先駆けてLGWAN―ASPサービスも手がけてきた。その意味では、クラウド戦略もそうした取り組みの延長線にあると考える。
 もちろん、先述した三つのサービスは仮想化やシンクライアントなど最新技術と融合することで、さらなる進化を目指すことになる。また、新たな視点に立ったサービスの拡充にも取り組む計画だ。その一例が、今夏に提供を開始する「TKC行政ASP/かんたん財務書類システム」である。これは、各社の財務会計システムと連携できる“ツール”であり、こうした新基軸のサービスが増えていくことで、「ベンダーロックイン(囲い込み)」が指摘される電子自治体市場へ一つの変化をもたらすものと期待している。
 重要なのは、市町村にとって最適な製品・サービスを、最適なコストで提供することと、相次ぐ法制度改正にも市町村が「適法・正確・迅速」、そして「安全」に業務を遂行できることであろう。そのため、いま当社では市町村と協働して、業務の効率化・コスト削減を実現する「次世代電子行政システム」の開発を始めている。