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 「新型インフルエンザ」の大流行に備え、市区町村が対策づくりを急いでいる。新型インフルエンザとは動物、特に鳥類のインフルエンザウイルスが人から人へ感染できるように変異することで発生する感染症だ。発生すると世界的大流行(パンデミック)となり、国内では4人に1人が感染し、最悪の場合、64万人が死亡すると推計されている。

 2月17日、国は『新型インフルエンザ対策行動計画』を改訂するとともに、本行動計画を踏まえ地方公共団体や企業、関係機関における具体的対策をまとめた『新型インフルエンザ対策ガイドライン』を策定した。ここで国は市区町村に対し、住民の生命を守り最低限の生活を維持する観点から、必要最低限の行政サービスを維持するための業務継続計画(BCP)策定を求めている。
 その先進例として、いま注目されているのが荒川区だ。平成18年に、従来の健康危機管理体制を見直し、健康危機管理担当課として保健予防課を新設。以来、住民・職員への啓発と対策整備に並行して取り組んできた。そして昨年9月、『新型インフルエンザ対応マニュアル』とともに、発生後の各課の対応をまとめた『新型インフルエンザ業務対応マニュアル』を公表したのである。

BCPの従来概念を捨てよ

 荒川区健康部保健予防課の鷹箸(たかのはし)右子課長は、業務対応マニュアル作成の狙いについて「新型インフルエンザはその感染力の強さから完全な封じ込めは困難。感染拡大を可能な限り阻止し、健康被害を最小限に止めて社会・経済機能の破綻を防ぐには、病気への対応だけではなく全庁的な対策検討が必要だった」と語る。

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 そこで昨年3~7月、副区長をトップに庶務主管課長をメンバーとする検討会を開催。「区役所業務は原則停止」を前提として、区民生活を支えるために最低限継続が必要な業務を整理したのである。このため各課の事業をすべて洗い出し、「従来通り継続しなければならない事務事業」「取り扱い方法を変更し対応できる事務事業」「中断および中止する事務事業」「使用中止施設」に分類したという。こうした基準は他に例がなく、この荒川方式は市区町村が重要業務を整理する上でも大いに参考となる。
 ところで、市区町村ではすでに地震など自然災害を対象としたBCPを策定している例も多い。だが、鷹箸課長は「従来のBCPは、できる限り事業を継続・早期復旧を図るのが基本だったが、新型インフルエンザは事業を継続することで感染リスクが高まる。このため検討にあたっては、まず〈行政サービスが低下しても住民の命を守ることが最優先〉と思考を切り替え、感染リスクと社会的責任とを勘案して継続レベルを決める必要がある」と指摘する。
 また、BCPで忘れてならないのが、重要業務の継続に不可欠な要素・資源、これに関わる事業者の選定だ。「例えば、情報システムが止まると業務が成り立たなくなり、在宅の高齢者・障害者等への生活支援という点でも民間事業者との連携が欠かせない」(鷹箸課長)ことから、事業者も含めて要員確保・業務継続へ必要な対策を講じておかなければならないのである。

まずは“知識のワクチン”を

 荒川区のほかにも、都道府県などから行動計画が公表されている。なかでも佐賀県では「あわてない・集まらない・がんばらない」という3つのキーワードで、対策のポイントを分かりやすく訴求しており、この考え方はぜひお手本としたい。
 また、『新型インフルエンザ対策ガイドライン』に収録されている『事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン』は、一般企業を対象にしたものだが、事業継続の考え方としては市区町村にも十分適用できるだろう。
 本ガイドラインは、「感染予防策」と「事業継続」の両面から行動計画を整理し、教育・訓練、点検・是正にいたる留意点を簡潔にまとめたもの。加えて、発生後に想定される職員の安否確認や情報収集・提供、あるいは施設管理(立ち入り制限や対人距離の確保)やリスクを低減させる取り組みなどについても具体的に言及している。

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 さらに、BCP策定とともに重要なのが、住民と職員に正しい知識をしっかり持ってもらうことだ。鷹箸課長は、これを「知識のワクチン」と表現する。市区町村は、プレパンデミックワクチンの製造・備蓄はできないが、知識のワクチンならばさほどお金をかけずに広められる。
 例えば、官民を問わず、日本には病を押してでも仕事をすることを良しとする風潮があるが、新型インフルエンザでは逆に“悪”となる。そうした意識を変え、疑わしい時は自宅療養するという基本ルールを組織全体に浸透させることも大切だ。
 また、パニック状態に陥ると根拠のない噂や差別につながる情報が流布しやすくなる。そのため住民へ繰り返し啓発活動を行うことも必要だろう。
 この点、荒川区では講演会の開催やリーフレットなどを作成したほか、普及啓発用グッズとしてマスクを配付している。今後は産業経済祭や区民祭など区主催のイベント等でもパンフレットともに積極的にマスクを配付し、住民個々に備蓄を促していきたいという。さらに、小さい子供を持つ保護者など、より対象者を絞り込んだ啓発活動も展開する計画だ。
 さて、BCPは策定したら終わりではなく、常に更新し実効性のある計画とする努力が欠かせないのはいうまでもないこと。荒川区でもすでにマニュアル改訂に向け動き始め、今後は対外的な調整会議体づくりも視野に入れているという。
 季節は春。寒く乾燥した時期が過ぎたからと安心してはいけない。新型インフルエンザには季節性はないと考えるべきだ。現に、新型変異への有力候補といわれる鳥インフルエンザH5N1型は、東南アジアなど暑く湿度の高い地域で多く発生しているのである。地域の実状に合わせた、市区町村レベルでのBCP整備が急がれる。
〈ご参考〉

●『新型インフルエンザ対策行動計画』と『新型インフルエンザ対策ガイドライン』は、内閣官房のホームページ(www.cas.go.jp/)からダウンロードできます。

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